LoRaWANネットワークの概要と利用事例紹介(2)

                                 
(株)エイビット 開発部
古川勇一郎

利用事例紹介

ここからはLoRaWANの利用事例として「八王子防災プロジェクト」を紹介する。
「八王子防災プロジェクト」は総務省「身近なIoTプロジェクト」内の「IoTサービス創出支援事業」に採択された実証事業である。

実証事業を行った東京都・八王子市は、三方を丘陵に囲まれたほぼ盆地状で、市内に17河川が流れる自然豊かな環境の反面、土砂災害警戒区域も多く存在し、過去には豪雨による風水害も経験した場所である。近年で最も大きかったのは「平成20年8月末豪雨」で、高尾駅周辺の地区では8月28日から31日まで4日間の総雨量が332.5ミリに達し、166世帯への避難勧告、187棟の床上・床下浸水、駅構内の冠水、車両の脱線と甚大な被害をもたらした。
これらの被害は、市内を流れる中小河川・用水路(以下、中小河川等)の増水・氾濫が起因となる事が多いが、既存の水位監視システムは一級河川等の大規模河川にしかなく、中小河川等は対象外となっている。また、中小河川等の水位監視を行うには多地点で展開する必要があるが、大規模河川を対象とした既存の水位監視システムでは大きさ・コスト共に中小河川等には適していない。さらに、水位の変化は大規模河川に比べ非常に早く、既存の水位監視システムと同じ計測間隔(10分毎)では、その変化を捉まえることができない可能性がある。(注1)

では、中小河川等を監視するにはどのようなシステムが適しているのか。
中小河川等は川幅が狭く住宅に隣接した場所を流れていることが多いので、大掛かりな装置を設置することは難しく、ソーラーパネルなどの外部電源を必要とせずコンパクトでなければならない。また、中小河川等の早い水位変化を捉えるため、計測間隔は大規模河川の2~5倍、つまり5~2分毎とする必要がある。但し、計測を頻繁に行うと電池寿命に影響するため省電力が求められる。そして、多地点で計測するために水位計は安価である必要があり、長期運用かつメンテナンスフリーが求められる。当然、設置コストも安価でなければならない。

これらの条件を鑑みて、LoRaWANを用いた水位計を開発した。

開発したLoRaWAN水位計

(注1)2017年時は大規模河川しか水位監視システムはなかったが、現在は国土交通省主導で小河川等に危機管理型水位計の設置が進んでいる。

次週に続く-

【著者略歴】

1996年 3月 日本電子専門学校電子音響工学科卒業
1996年 4月 株式会社東洋リンクス入社 マイコン関連開発業務に従事
2009年 1月 株式会社エイビット(技術部)入社
2017年 5月 総務省実証事業「八王子防災プロジェクト」に従事