IoTを牽引する広域センサネットワークLPWA の最新動向と将来展望(1)

千葉大学 名誉教授 阪田史郎

1. LPWAの概要

LPWA(LowPowerWideArea)は、低消費電力で広域をカバーする無線センサネットワークである。センサネットワークは、1990年代末に研究が始まったユビキタスネットワーク、これを2012年頃から継承したIoT(InternetofThings)の中核ネットワークとして期待されたが、主に通信距離不足のため利用が進展せず低迷が続いた。
このような状況で出現したLPWAは、2010年代半ばより徐々に利用され始め、2022年には200兆円の大市場を創造すると予測されているIoTの起爆剤として近年急速に注目を集めている。LPWAの市場は2019年以降年率20%以上の成長が見込まれている。
2012年以降相次いでサービスを開始した独自仕様のLPWAのSigfoxとLoRaは、2015年からヨーロッパにおいて従来携帯電話網で提供されていたデータ通信の市場を奪い始めた。これに対抗するため、ヨーロッパを中心とした携帯電話関連機器ベンダが、第4世代携帯電話網(以下4G)の仕様としてLTE(LongTermEvolution)版LPWAを急遽規格化し、世界各国の通信事業者がLTE版LPWAの開発を開始した。2018年には中国や北欧等でLTE版LPWAの一部の仕様を採用したサービスを開始した1),2)
国内では、2017年にSigfox、LoRaのサービスが相次いて開始され、通信事業者(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)は2018年にLTE版LPWAのサービスを開始した。
独自仕様のLPWAについては、2018年以降も新規参入が相次いでいる。携帯電話網を利用したLPWA(以下セルラーLPWA)についても、2020年にサービスが開始される第5世代携帯電話網(以下5G)に向けた検討が2018年に開始された。

1.1 センサネットワークの分類とLPWA

センサネットワークでは、他の指標と比べ相対的により公平な評価が可能な通信距離によって、表1.1のように分類するのが一般的である。また、LPWAは、上記のように、大きく独自仕様のLPWAと、携帯電話網を利用したセルラーLPWAに分けられる。

表1.1 通信距離によるセンサネットワークの分類

準広域ネットワークは、スマートグリッドへのニーズの高まりに伴い、2009年頃に本格的な研究が開始され、2012~2016年に標準化された。しかし、狭域センサネットワークも準広域センサネットワークも通信距離不足から利用は拡大せず、IoTの市場を立ち上げるに至っていない。
準広域センサネットワークについては、Wi-SUN、IEEE802.11ah(WiFi-HaLow)、沖電気のSmartHopが代表的である。Wi-SUNとSmartHopはマルチホップ通信による数100mの通信を特徴とし、IEEE802.11ahは無線LANの実績を武器に2018年に普及に向けた推進協議会を設立している。

1.2 LPWAの特徴

従来の無線ネットワークに対するLPWA共通の特徴として、低消費電力と長い通信距離(1ホップで約2km以上)に加え、以下が挙げられる。

・通信速度が遅い(1Mbps以下)
・パケット長が短い(数byte~数10byte)
・通信頻度が少ない(センサからの収集頻度は1時間に数回~1日に数回)
LPWAの位置づけと従来の無線ネットワークとの関係を図1.1、独自仕様のLPWAとセルラーLPWAの比較を表1.2に示す3)~5)

図1.1 LPWAの位置づけ
表1.2 独自仕様のLPWAとセルラーLPWAの比較

1.3 LPWAの応用

LPWAでは、IoTとほぼ同様、公共、産業、個人レベルまで、人々の生活の隅から隅に至る広い応用が想定されている。メータリング(検針)、モニタリング(監視)、トラッキング(追跡)が主要3機能とされ、各機能の主な応用を表1.3に示す。

表1.3 LPWAの主な応用

次週に続く-

参考文献

1)S.Sakata、”EmergingLPWAasacoreofIoT-OverviewandPerspective、”Wireless TechnologyPark(WTP)、2017.5

2)阪田史郎、”LPWAの現在と未来、”MDB技術予測レポート(日本能率協会総合研究所)、 2018.2

3)阪田史郎、”広域センサネットワークLPWAの最新動向、”けいはんな情報通信オープンラボ研 究推進協議会、’IoTサービス創出に向けて’講演会、2018.2

4)阪田史郎、”LPWAの最新動向と将来展望、”総務省九州総合通信局電波利活用セミナー-IoT 時代におけるLPWAの魅力と可能性、2018.6

5)阪田史郎、”競争激化で成長・普及期に突入したIoT向け広域センサネットワークLPWAの詳細、”組込みシステム開発技術展(ESEC)、2019.4

【著者略歴】

1972年早大理工電子通信卒。1974年同大学大学院理工学研究科修士卒。同年NEC(日本電気)入社。
以来、同社研究所にてインターネット、マルチメディア通信、モバイル通信の研究に従事。工学博士。
1996-2004年同社研究所所長。1997-1999年(兼)奈良先端科学技術大学院大学客員教授。
2004-2014年より千葉大学大学院教授。同大学では、ユビキタスネットワーク、IoT/LPWA、5Gネットワークの研究に従事。2014-2019年同大学グランドフェロー。
2019年より同大学名誉教授。IEEE Fellow、電子情報通信学会フェロ―、情報処理学会フェロ―。
情報処理学会では、理事、監事歴任に加え、山下記念研究賞受賞、マルチメディア通信およびモバイル通信に関する先駆的研究に対し功績賞受賞。
電子情報通信学会では、理事、評議員(2期)歴任に加え、ユビキタスネットワークに関する先駆的研究に対し顕彰功労賞受賞。
総務省より、災害支援のための無線マルチホップネットワークに関する研究業績に対し総務省関東総合通信局長賞受賞、他受賞。
情報通信ネットワークに関する単著書4、共著書40。
http://sakatashiro.com/で詳しく紹介。