空間系LiDARから水中への展開(4)

島田 雄史
(株)トリマティス
代表取締役
鈴木 謙一
(株)トリマティス
マネージャー

4.ALAN(Aqua LAN)コンソーシアム

日本を取り巻く広大な海洋およびその資源を活用する機運20)が高まっており、そのためのインフラの整備が急務である。また海中を代表する水中環境は、音波等、限られた手段しか使えない”最後のデジタルデバイド領域”であり、水中環境の有効活用のためには、水中での地上並みの通信ネットワークの構築が、喫緊の課題である。
これらの課題を解決するため、ALANコンソーシアムは、水中環境を一つの生活圏と捉え、水中に光無線技術を適用したLocal Area Network(LAN)を構築することを目的として、2018年5月21日にJEITA「共創プログラム」の第1弾に採択された21)のを受け、6月21日に旗揚げされた。

またALANコンソーシアムは、可視光が水中での損失が小さく、可視光レーザー技術が国内に蓄積されていることに着目し、
・基礎レベルから青色光源を中心とした光無線技術(水中光無線通信、水中LiDAR、水中光無線給電)の研究開発
・音波や有線技術等とのすみわけによる、より柔軟性のある(水中)ネットワークの実現
・人間に代わり水中で自由に行動できる水中ロボットの活用
・水中環境を次世代の新経済圏と捉えた民需に特化した材料・デバイス・機器・システム・ネットワーク開発
を推進することをコンセプトとしている。

ALANコンソーシアムの体制を図6に示す。ALANコンソーシアムは、コンソーシアムの運営方針を決定する運営員会(委員長 島田(トリマティス))、要素技術およびその技術課題を議論する実行委員会(委員長 安達特任教授(東北大))、水中技術を活用した応用分野を開拓する市場検討員会で構成されている。実行委員会の配下には、各要素技術を検討するワーキンググループが設置されており、水中LiDARの技術検討を行う「水中LiDARワーキンググループ」も設置されている。

図6 ALANコンソーシアムの体制

ALANコンソーシアムは、2019年度からの3年計画22)により、要素技術の確立を目指している。3年後の目標イメージを図7に示す。目標イメージにある水中ロボットに搭載された水中LiDAR(などのセンサ)による水中の詳細データ化、水中無線通信の適用による水中でのデータ転送、水中通信ネットワークのプラットフォームの構築により水中と地上とのシームレスな通信環境、水中無線給電による水中ロボットの長時間運用の実現可能な要素技術の確立を目指している。

図7 3年後の目標イメージ

このように、ALANコンソーシアムは、要素技術のを確立による水中光技術の飛躍的進歩を、新規ビジネスにつなげたいと考えており、市場検討委員会が中心となり下記のような市場の検討を行っている。
・水中モニタリング:
海沿岸施設や海岸線の監視に加え、養殖施設における魚の成長管理を行う。また、水中ロボットからの映像を陸上で視聴する「VR水族館」など新たな水中ビジネスの創出に貢献する。
・海底地形・水中構造物調査:
海底地形図の作成、水中構造物の点検、および海底ケーブルの調査を容易にし、日本のインフラ維持に貢献する。特に、建築年度が判明している橋の67%、港湾岸壁の58%、および河川管理施設(水門等、建築年度が不明で建築後50年以上の施設を含む)の64%が、2033年3月までに築後50年を突破すると試算されている23)ため、水中構造物の点検への対応は急務である。
・海洋エネルギー調査:
日本近海に賦存が期待されている海中エネルギー資源の探査効率を改善することにより、エネルギー・資源問題解決に貢献する。

5.おわりに

LiDARの技術動向と、これからの市場拡大が期待される水中LiDARへの取り組みや海洋探査への応用例について紹介した。また水中環境を一つの生活圏と捉え、水中光ネットワークの実現するための水中LiDARを始めとした要素技術の確立と、その活用による新市場の開拓を目指すALANコンソーシアムについて紹介した。

参考文献

20) 内閣府 海洋資源の開発及び利用(2019年3月20日閲覧)
https://www8.cao.go.jp/ocean/kokkyouritou/yakuwari/yakuwari03.html

21) JEITA報道発表(2018年5月21日)
https://www.jeita.or.jp/japanese/topics/2018/0521.pdf

22) OPTRONICS ONLINE(2019年2月21日)
http://www.optronics-media.com/news/20190221/55736/

23) 国土交通省「平成28年版 国土交通白書」」p.7,図表1-1-10
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h28/hakusho/h29/menu.html

著者略歴

島田 雄史 (しまだたけし)
• 1994年 4月国際証券株式会社(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社
• 1995年 9月株式会社応用光電研究室(現在は消滅)入社
• 2001年 7月株式会社オプトクエスト設立に参加
• 2002年 8月富士通東日本ディジタル・テクノロジ株式会社(現在は富士通に吸収)入社
• 2004年 1月有限会社トリマティス(現株式会社トリマティス)設立、代表取締役 CEOに就任
• 2018年一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の共創プログラムであるALANコンソーシアムの代表にも就任

鈴木 謙一(すずき けんいち)
• 1990年4月日本電信電話株式会社入社
• 2009年3月博士(情報科学)取得(北海道大学大学院博士後期課程修了)
• 2011年IEEE1904.1 SIEPON WG(現IEEE1904 ANWG)副議長
• 2012年8月HATS推進会議光アクセスAd-hoc WG(現光アクセス相互接続連絡会主査
• 2013年4月日本電信電話株式会社NTTアクセスサービスシステム研究所グループリーダ
• 2019年2月株式会社トリマティス入社