次世代ウエアラブルIoTのための非侵襲バイオセンシング(2)

三林 浩二
東京医科歯科大学
生体材料工学研究所
センサ医工学分野

2.2 マウスガード型グルコースセンサ

口腔用のマウスガード型グルコースセンサもSCL型センサと同様に、マウスガード材料に薄膜電極を成形し、GODを固定化し作製した。マウスガードについては、市販のマウスガード材料であるポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)を選択し、電極(PtとAg)の薄膜をスパッタ装置にて成膜した。 次に、GODを生体適合性ポリマーにて包括固定化した。なおマウスガード型センサでは、上下2枚のマウスガード用シートを積層し、計測回路と通信回路を被覆コートし作製した(図3)。作製では、石膏歯型をもとに吸引型成型器にて、シート材料(厚さ:0.5mm)からマウスガード(下部)を3次元成型した。 次に臼歯の頬側に回路部が位置するように設置し、成型器にて上部のマウスガードを加工した。
次に、上述の電極作製方法を用いて、下部のマウスガードの口腔内側表面部にバイオセンサを構築した後、測定回路と電極端子を接合し、マウスガード型バイオセンサとした[3]。無線計測を行うため、測定・通信回路を設計・外製した。無線の周波数帯域には、産業・医学用機器の周波数帯である2.4 GHz帯を採用し、ボタン電池(1.5 V、1個)を計測および無線通信の電源とした。出力電流値は、数値データとして受信機に送信され、リアルタイムでPC(スマートホン、スマートウオッチ)に表示される。

図3 通信機能付きマウスガード型グルコースセンサ模式図・外観写真と口腔への装着写真(右)
  

予備実験として、人工唾液をもとに調整した標準グルコース溶液を、マウスガード型センサに負荷したところ、出力電流値の著しい低下が観察された。人工唾液に含まれるタンパク質(ムチン等)がセンサ感応部に吸着することが、その原因と考えられた。
そこで、感応部に生体適合性ポリマーをオーバーコートすることで、タンパク質の影響防止を図った。改良したバイオセンサではS/N比が向上し、唾液濃度(20〜200µmol/l)を含む、10〜1000µmol/lの濃度範囲でグルコースの定量が可能となった[3]
なお作製したセンサの選択性を、各種の糖類(ガラクトース、ソルビトール、キシリトール、フルクトース)を用いて調べたところ、グルコースに対して高い選択性を示した。現在は本学歯学部との共同研究にて、開発した無線通信機能付きマウスガード型センサによる唾液グルコース計測の実験を進めている。

次週に続く-

参考文献

[3] Arakawa T, Kuroki Y, Nitta H, Chouhan P, Toma K, Sawada S, Takeuchi S, Sekita T, Akiyoshi K, Minakuchi S, Mitsubayashi K, Mouthguard biosensor with telemetry system for monitoring of saliva glucose: A novel cavitas sensor, Biosensors and Bioelectronics, 84, 106–111 (2016)


著者紹介
氏名:三林 浩二(みつばやし こうじ)
所属:東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 センサ医工学分野

■略歴
1985年3月  豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 修士課程 エネルギー工学専攻 修了
1994年9月  東京大学大学院 工学系研究科 博士課程 先端学際工学専攻 修了(博士[工学])
1998年4月  東海大学 工学部電気工学科 助教授
2003年9月  東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 計測分野(現:センサ医工学分野)教授
2011年    仏国ペルピニアン大学 IMAGES研究所 客員教授
(2008年4月~2011年3月 東京医科歯科大学 評議員)
(2011年8月~2014年3月 同大学 学長特別補佐[評価担当])
(2014年4月~2017年3月  同大学 副理事[企画・大学改革担当])
現在に至る
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学会役員など
2013/1-現在  化学センサ研究会  役員
2016/5-現在  次世代センサ協議会 理事
2012/1-現在  Biosensors and Bioelectronics (@Elsevier) 編集委員
2015/1-現在  Sensors and Materials (@MYU) 編集委員、2017/4-現在 Associate Editor
2017/4-現在  センサ&IoTコンソーシアム会長
など
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2006年  日本機械学会「講演論文賞」
2006年  IEEE Sensors 2006, Best Presentation Award
2011年  電気学会「優秀技術論文賞」
2015年  Runner Up Award、4th International Conference on Bio-Sensing Technology, Lisbon on 10-14 May 2015.
他、多数

■専門分野・研究テーマ
センサ医工学、医療用バイオデバイス、生体情報計測、ユビキタス情報通信、生体応用工学 など