~キーワードから解説する~「IoT時代を担うキーはセンサ技術」(2)

藍 光郎
((一社)次世代センサ協議会 顧問)

頭文字Iは初期のIntegrationのハードからInformation、Internet、Intelligenceのソフトへ、同様にCはCircuit、Computerのハードから後半はCommunicationのソフト、Tは中期のTechnologyのソフトから現在のハードとソフトが融合されたThingsになっており、略称にもハード、ソフト、それらの融合、と時代の変遷がある。一般にThingsは「物」であるが、筆者は「物事」と定義している。「もの」は形があり、「こと」は形の無いもので、Thingsはハード、ソフトが融合された森羅万象を網羅する物事と考えている。

センサは人間の五感を代替するといわれてきた。すなわち、視覚、触覚、聴覚、味覚、嗅覚である。この他にも温覚などがあり、現在では人間の感覚の領域をはるかに超えた各種のセンサが活躍している。更に電気、磁気など、人間が持っていないとされた物理・化学量をはかるセンサとして幅広く実現している。 1950年代前半迄はメカニカルな機構(からくり)を用いるものが主体であり、一部が金属材料の機能性を利用していたが、後半になると半導体材料(Si)の物性を用いた電子技術が生まれ急速に発展した。更に、1970年後半MEMSが誕生し、電子技術の進展に伴ってセンサも新しい時代に突入した。最近はナノ寸法のNEMSの開発も進んでいる。

センサは多くの技術分野にまたがる境界領域の先端的な技術・製品である。いろいろな技術を融合・活用させることによって、はるかに多彩なセンサがうまれ自動車、家電などにも積極的に利用され、センサ自身も飛躍的な発展を遂げつつある。異種センサの複合化とパターン認識手方の導入によって、化学センサの技術的な障害が除かれ、急速に実用化が進んだ。日本生まれの世界に先駆けた誇るべき技術である。 センサ自身も、初期は単体のハードであったが、CPUを内蔵できるようになった中期以降はインテリジェントセンサ、スマートセンサ、AIセンサ、センスパイアなど次第に演算や通信などのソフトが組み込まれるようになった。今やセンサ内部に組み込まれたソフトは一種のハードと定義できる地位を占めている。

現在は自動車、スマートフォン、ゲーム機など、安価で超小形の既存のセンサを主体として色々な分野に応用されつつある。単純なセンサを数種類組み合わせることによって、人間の健康度や幸福度などの情報も計れるようになった。道路、橋梁、鉄道などのインフラの予防保全にも役に立つ。 また人は情報の70~80%を視覚から得ているといわれる。視覚センサはカメラの画素数が数千万になり、AI等のソフト技術が進歩した結果、応用範囲が格段に拡がって、人に劣らない情報を得られるようになった。高精細の4K、8Kカメラの普及が更に多くの情報を得る手段になるであろう。

現在、世界のセンサ使用数は一人当たりほぼ1個であるが、これを100個以上にするトリリオン(兆)・センサという概念が具体的に提案されている。IoTはあらゆる「物 と事」を対象とする。物事にセンサを装備すると100個では足りず、これからは遥かに多くの新しい種類のセンサが必要となる。過去にはこのビッグデータを超高速に処理できるコンピュータ、サーバ、ストレージ、クラウドやそれに伴うソフトウエアが未熟であったが、現在はかなり対応できるようになり、更に将来も急速に進歩する見通しがある。 AIはデータが多い程精度が上がる。データの発信源はセンサである。センサが無ければ物事からの情報を得られない。このためにIoTの中でも特にセンサの将来性が期待されている所以である。今や我々はセンサ無しには生活できない時代に突入しているのである。 電子技術の進歩については、コンピュータやAIが人間の能力を完全に超える時点のシンギュラリティが2045年問題として議論され始めている。センサからの正確で安定した大量の情報をいかに活用するかが、我々人類が直面する今後の大きな課題であろう。

藍 光郎(あい みつお)略歴

元 :(株)日立製作所 センサ技術委員会 委員長
    (社)日本技術士会 副会長
    (株)超伝導センサ研究所 代表取締役専務
     マレーシア標準工業研究所 チーフアドバイザー
    (一社)次世代センサ協議会会長

現在 : (一社)次世代センサ協議会 顧問
      工学博士、技術士(機械)、一般計量士