Beyond 5G/6Gに向けて、ミリ波帯での多数同時接続と超低遅延の同時実現

 (株)構造計画研究所と電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター(AWCC)石橋 功至教授は、Beyond 5G/6G※1 に向けて導入が進むミリ波※2帯において、多数同時接続と超低遅延を同時に実現する無線通信方式を世界で初めて実証した。実証に用いたミリ波サービスエリアの実現には、構造計画研究所が長年取り組んできたソフトウェア無線※3 技術を用いた。

■ 背景と概要
 移動体通信システムは、これまで第3世代(3G)、第4世代(4G)、第5世代(5G)へと進化を遂げるにあたり、より高い周波数帯を使うことで通信の高速化を実現してきた。現行の最新世代である5Gにおいては、従来使用していたマイクロ波と呼ばれる周波数よりもさらに高い「ミリ波」を利用することで通信速度の向上を目指している。今後、2030年以降のBeyond 5G/6G時代においては、ミリ波による高速通信に加えて、自動運転やドローン、ロボットの制御、工場内での超高密度の機器やセンサの活用など、低遅延性や機器の多数同時接続性を要求するサービスの普及が想定されている。

 現行の5Gでは、高速大容量・超高信頼低遅延・多数同時接続といった3つの通信要件が個別に想定されているが、Beyond 5G/6G時代には、そうした通信要件の組み合わせを同時に満たす技術の開発が求められている。例えば、通信許可なしで自由にデータ伝送可能な超低遅延を実現するためのグラントフリー(Grant Free: GF)と多数同時接続を実現するための非直交多元接続(Non-Orthogonal Multiple Access: NOMA)を組み合わせ、低遅延と多接続を同時に満たすグラントフリー非直交多元接続(GF-NOMA)という技術が検討されている。

 しかしながら、従来のGF-NOMAでは、多接続性に関わるユーザ収容数の限界と、遅延に直結する演算量負荷、またデータの復元性能において、それぞれ課題があった。今回、圧縮センシングを用いた新たなGF-NOMA方式※5 を開発し、従来方式より同一周波数リソースに多数のユーザを収容でき、さらに低演算量かつ高精度のデータ復元が可能となった。

 今回の実証実験では、構造計画研究所が培ってきたソフトウェア無線技術を駆使してミリ波による無線通信可能なサービスエリアを実機で構成し、電気通信大学が考案したGF-NOMA方式と復調アルゴリズムを動作させることで、ミリ波帯で多数同時接続と超低遅延を両立した通信が可能なことを世界で初めて示した。

■ 実証内容
 28GHz対応の基地局および端末を、通信機能をソフトウェアで実装することで通信方式の切り替えを自由にできる無線機(ソフトウェア無線機)をベースに構築し、信号処理機能は5GシステムのオープンソースソフトウェアであるOpenAirInterface(OAI)※6 を用いることで、ミリ波対応5G無線通信環境を実現した。今回は、OAI上に新たなGF-NOMAを拡張実装することで、新たな通信方式を検証する5Gシステム基盤として用意し、その検証基盤を用いて実証実験を行った(画像)。
 具体的には、2台の端末から同時に同じ周波数・時間リソースを使用して小容量(10 kbps程度)のデータを送信し、基地局側では専用ハードウェアでなく汎用PCを用いて、3.5ミリ秒(最良値)の遅延で受信データの復調まで2台分ともにできることを確認した。これにより、ミリ波帯の5G通信において、多数同時接続と低遅延を同時に満たす検証方式を技術的に実証することに成功した。

■ 本報道発表内容の分担
 電気通信大学が方式の考案・シミュレーション評価を行い、構造計画研究所が実機環境の構築と方式の実装および実機評価を担った。

 本件は、総務省「電波資源拡大のための研究開発」のうち、技術課題ア「多様なサービス要求に応じた高信頼な高度5Gネットワーク制御技術の研究開発」の、課題ア-2 サブテーマ②「ナノエリア対応高信頼ワイヤレスアクセス実現手法」により得られた成果の一部である。

解説
※1 Beyond 5G/6G:Beyond 5Gは5Gの次の世代(6G)以降の移動通信システム。2030年頃の導入を想定されている第6世代移動通信システム(6G)を含み、これ以降の次世代移動通信システムのことを広く指すため、しばしばBeyond 5G/6Gと表記される。

※2 ミリ波:1mm~10mmとミリメートル単位の波長をもつ電波をミリ波と呼ぶ。ミリ波帯は、厳密にはこの波長区間に対応する30GHz~300GHzの周波数帯のことだが、日本の5Gで用いられる28GHz帯もこれに近いことからミリ波帯と呼ばれる。

※3 ソフトウェア無線:無線機の通信機能をソフトウェアで制御する技術。従来の無線通信システムでは、通信機能はハードウェアで固定的に実装されていたが、ソフトウェア無線技術では、通信機能をソフトウェアで実装します。このため、様々な通信方式や周波数帯に対応できる高い柔軟性とメンテナンス性、低コスト性などの点から、急速に高度化・複雑化する移動体無線通信を実現するための技術として注目されている。

※5 圧縮センシングを用いたグラントフリー非直交多元接続方式:
 各ユーザが非直交系列をプリアンブルとして送信し、受信機が圧縮センシングの枠組みで、送信ユーザ、距離減衰、通信での変動を同時推定した情報を用いて、効率的に各ユーザの情報を復元する通信方式。本技術については、電気通信大学から、2021年3月2日にプレスリリースが発出されている。
 https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2021/20210302_3152.html
また、通信系最大の国際会議であるIEEE International Conference on Communicationsの2022年開催(ICC2022)においても、本方式の詳細が発表されている。
 https://xplorestaging.ieee.org/document/9839108

※6 5Gの技術仕様に準拠した機能を包括的に提供する、フランスの大手電気通信研究所EURECOMが開発したオープンソースのソフトウェア。
 https://openairinterface.org/

プレスリリースサイト:https://www.kke.co.jp/release/13698