車載LiDARの最新の動向(3)

5 車載用フラッシュLiDAR

フラッシュLiDARは,米国のASC社が実用化し,宇宙機に搭載された実績がある25)。フラッシュLiDAR用のフォーカルプレーンアレイには,リニアモードで動作するものと,フォトンカウンティング計測で使用するガイガーモードで動作するものとがある。リニアモードで動作するものは,ガイガーモードで動作するものに比べて感度が低いため,測定可能距離が短いが,近距離用であ ればリニアモードで動作するフォーカルプレーンアレイを用いたほうが安価なシステムが構成できる可能性があり,ASCはリニアモードで動作する光検出器を使用している25)。ASC製のコンパクトな3D フラッシュLiDARTigerCubには,光源として波長1.57 mmで動作する市販のレーザーが搭載されている26, 27)。ASC社の車載用事業部門ASCar は,2016 年3月にContinental 社に買収され,これに伴ってASC社によるHi-Res 3DフラッシュLiDARの事業はContinental 社に移管された。Hi-Res 3DフラッシュLiDARの光源波長や光検出器などの詳しい仕様は明らかにされていない。

カナダの光学・光通信研究所INOからスピンアウトして2007 年に設立されたLeddarTech社は,波長940 nm帯のLEDを用いた16 チャネルの安価な測距センサーを開発した経緯がある28)。その際に使用された受光器は1 次元アレイであり,受光システムの視野は45°×8°である。
同社は,2016 年6月に,運転支援及び自動運転用の全固体LiDAR ICのロードマップを発表した29)。走査型及びフラッシュ型の両方式のLiDARに対応する予定であり,自動運転レベル1 から3 までを対象としたLC-A2を2017年後半に,また自動運転レベル2 から4 までを対象としたLC-A3 を2018 年にサンプル出荷する計画である。最大測定距離は250 m,視野角は140°,水平及び垂直方向の分解能は0.25°で,毎秒480,000 ポイントの測定が可能になる模様である。また同社は,2016 年9月に,同社のコアIC LeddarVuを搭載した8 セグメントのフラッシュLiDARを発表した30)。これには波長905 nmのレーザーが搭載されている。データリフレッシュ速度は最大100Hzが得られる。視野角は,レンズにより異なり,水平方向は20°,48°,100°の3 種類が,また垂直方向には0.3°及び3°の2 種類が選択できる。使用されている受光器の仕様は不明であるが,1次元の受光器アレイが搭載されているものと推察される。

国内では,2015 年10 月に開催された東京モーターショーにおいて,オムロンが140°の広い視野角と高い認識性能を両立した,「3D 距離画像センサー(3D FlashLIDARTM)」を紹介した31)が,これに関する詳細な仕様等はまだ開示されていない。

フラッシュLiDARは,測定可能距離が走査型LiDARよりも概して短いが,データ取得の繰り返し周波数が走査型LiDARよりも速いので,市街地などにおける自動車近傍の複雑な交通環境の把握に適していると考えられる。日産自動車が2015 年10 月から公道テストを開始した自動運転を可能にするための新型実験車には,カメラ,ミリ波レーダーなどに加え,小型・高性能な量産試作段階の「3Dフラッシュライダー」が4基搭載されている32)

6 おわりに

車載用LiDARの開発が最近急速に進展しているが,車載用LiDARを実際に活用するには,そのハードウェア及びソフトウェア単体のみならず,高精度な3 次元のデジタル地図,各種センサーとのフュージョン技術などを含め,高度なIT技術及びAI(人工知能)などの発達が不可欠であり,その本格的な普及には,まだかなりの成熟期間が必要であろう。
車載用LiDARの正確な性能比較のために,車載用LiDARのテスト方法に関する標準化が望まれる。

参考文献

25) P. F. McManamon, et al.:”A comparison flash lidar detector options,” Proc. of SPIE, 9832 (2016) 983202.

26) T. E. Laux, et al.:”3D flash LIDAR vision systems for imaging in degraded visual environments,” Proc. of SPIE, 9087 (2014) 908704

27)” TigerCub 3D Flash LIDARTM with Zephyr laser camera,”
http://www.advancedscientificconcepts.com/products/tigercub.html

28) B. Gutelius:”Follow the LeddarTM – Review of a low-cost detection and ranging device,” LiDAR New Magazine, Vo. 4, No. 5 (2014).

29) http://leddartech.com/leddartech-unveils-solid-state-lidar-ic-roadmaptowards-autonomous-driving/

30) http://leddartech.com/leddartech-launches-leddarvu-new-scalableplatform-towards-high-resolution-lidar/

31) http://www.omron.co.jp/press/2015/10/c1026_2.html

32) http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/727208.html

■Recent Trends in LiDARs for Automotive Applications
■Kumihiko Washio
■Paradigm Laser Reasearch Ltd.
ワシオ クニヒコ
所属:㈲パラダイムレーザーリサーチ 取締役社長

(月刊OPTRONICS2017年2月号より転載)