インピーダンス・センシング向けアナログ・フロント・エンド技術
(Overview of analog front end technology for impedance sensing)(2)

渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ(株)
インダストリアルビジネスグループ
渡邉 慶太郎

4. インピーダンス測定/センシング向けの各種ソリューションと活用事例

 DUTの種類やアプリケーションによって、インピーダンス測定/センシングには多様な性能要求が存在する。また、いずれのアプリケーションにおいても多チャンネル化や低コスト化を背景とした小型化要求や、技術革新を背景とした開発の迅速化要求が強く存在する。他方で、いずれの測定手法は複雑な回路によって実現されるため、多くの場合で据え置き型の計測器を必要としていたことがインピーダンス・センシングの用途を制約してきた。
 これらの要求に応えるため、アナログ・デバイセズでは、ワンチップのICからボード・レベルのリファレンス・デザインまで幅広いソリューションを提供している。

図4 インピーダンス・センシング向け半導体ソリューションの例
図4 インピーダンス・センシング向け半導体ソリューションの例

4.1. ワンチップAFE及び高精度マイクロコントローラ(MCU)

 アナログ・デバイセズは、BIA及びEISに適した周波数範囲でのインピーダンス計測を可能にする、DFTエンジンを搭載したワンチップ・アナログ・フロント・エンド(Analog Front End; AFE)製品及びMCU製品を提供している。
 具体的なアプリケーションの例として、センサの診断機能付きガス測定システム及びバッテリ向けEISのリファレンス・デザインを提供している。また燃料電池の電極劣化を検知できるシステムを開発し、パートナーの燃料電池ベンダとともに有用性の検証を行っている

4.2. 高精度インピーダンス・アナライザ・モジュール リファレンス・デザイン

 比較的低周波数において高確度のインピーダンス計測を行う手法として自動平衡ブリッジ法があるが、その回路構成は複雑である。アナログ・デバイセズでは高精度回路設計のための各種IC(OPAMP, ADC, 電圧リファレンスなど)を提供しているが、併せて開発の迅速化のために自動平衡ブリッジ方式のインピーダンス・アナライザのリファレンス・デザイン ADMX2001を提供している。
 本モジュールは広いレンジのインピーダンスを測定可能であり、様々なDUTに対するEISや電子部品検査に利用可能であるとともに、小型モジュールであり既存の計測器への組み込みも容易である。さらにユーザーが設計する外付けのドライバ回路を接続することで、大電流を要求する用途にも対応可能である。

4.3. ベクトル・ネットワーク解析用AFE IC及びVNAリファレンス・デザイン

 高周波回路は、一般に特性インピーダンスを50 ohmに整合させて設計される。回路と回路を接続するとき、インピーダンスが整合していれば反射が生じないが、整合していなければ反射が生じる。すなわち、反射波の存在からインピーダンスの不整合を検知することが可能であり、入射波/反射波の大きさと位相の情報を得ることができれば、インピーダンスを算出することが可能である。
 アナログ・デバイセズは、反射波を検知するワンチップICとして双方向のゲイン及びVSWR測定が可能なADL5920、簡易的なインピーダンスを算出する用途にはログアンプでの電力検知並びに位相検知が可能なAD8302を提供している。また具体的なアプリケーションとして、ADL5920を用いた水位計の提案を行った
 しかし、高周波数においてより正確にインピーダンスを測定するためには、各種誤差項を校正可能なベクトル・ネットワーク解析システムが必要である。

 本年リリース予定のADL5960はフルn-ポート校正が可能なVNAシステムを構築できる世界初のベクトル・ネットワーク解析向けAFE ICであり、現在リファレンス・デザインとして現在8-ポート VNAを開発中である。このような省サイズかつ経済的なネットワーク解析システムの実現により、高周波数帯における電子部品や基板検査、またインピーダンスを用いたCbMの利用拡大が期待される。

図5 開発中の8-ポート VNAリファレンス・デザイン 試作基板
図5 開発中の8-ポート VNAリファレンス・デザイン 試作基板

5. おわりに

 本稿では、インピーダンス測定/センシングの主要用途と、最新の半導体技術がどのように測定/センシング・システムの小型化や迅速な開発に貢献するかを示した。
 インピーダンスはDUTの物性を反映するが、その電気的モデルは複雑でときに理論付けが難しく、また変化量がわずかである場合も多い。インピーダンスを精度良く測定し、価値ある情報を抽出するためには、高精度アナログ回路と並びプロセッサや各種アルゴリズムも重要である。
 アナログ・デバイセズは、アナログ半導体の集積技術・パッケージ技術を用いてインピーダンス測定/センシングを高精度かつ小型に実現できるICを提供するとともに、デジタルICやソフトウェアにも注力し、データのセンシングから分析までのセンシング・シグナル・チェーンを包括的にサポートする。





【著者紹介】
渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ株式会社
インダストリアルビジネスグループ インスツルメンツ
シニアフィールドアプリケーションエンジニア

■略歴

  • 2015年3月東北大学理学部 卒業
  • 2017年3月東北大学大学院理学研究科 博士前期課程修了(修士(理学))
  • 2017年4月アナログ・デバイセズ(株)(米国Analog Devices, Inc. 日本法人)入社
  • 以降フィールドアプリケーションエンジニアとして、主に電子計測器市場向け各種ミックスド・シグナルIC及びモノリシック・マイクロ波IC(MMIC)のアプリケーションサポートに従事。
    2020年より、マイクロウェーブ展(MWE)実行委員会展示委員。