自動車搭載センサによるドライバ状態のモニタリング(2)

オムロン(株)技術・知財本部 センシング研究開発センタ
木下 航一

3.センサ撮像系

運転席において昼夜問わず、高精度なドライバ状態モニタリングを実現する上で重要となるのが、認識処理にとって十分な画質の画像を安定して取得することである。昼は直射日光が差し込み、夜は真っ暗となる等、照明条件が多様に変化する自動車の運転席は、画像認識アルゴリズムにとって必ずしも良い環境ではない。センサの撮像系によってこれら予想される写りの変化をなるべく吸収し、後段に照明条件の変化にかかわらず常に安定した画像を渡すことは、後段処理の負荷の軽減に直結する。このことは計算リソース、消費電力に制限の強い組込み環境において高精度な認識処理を実現する上で重要なポイントである。車載環境でドライバを撮影する際に主に問題となるのは以下の3点である。

① 夜間の撮影
② 直射日光の影響
③ メガネ反射の影響
われわれはこれら課題に対処するため、以下の特徴をもつ撮像系を開発した。
① 近赤外照明による照射/撮影
② 差分画像による外乱光除去
③ 偏光フィルタによる反射光成分除去

3. 1 近赤外照明による照射/撮影

夜間暗闇となる運転席においてドライバ状態を高精度に認識するためには、照明によってドライバを照射して撮影することが必須となる。しかしながら可視光の照明を使用するとドライバが眩しさを感じるとともに、反射光によってフロントガラスを通した視認性を損ない安全な運転の妨げとなる。このような理由から、ドライバモニタリングのためのカメラでは、人が感知できない近赤外領域の波長を用いた照明が用いられることが一般的である。われわれのセンサにおいても、近赤外領域の波長をもつLEDをカメラ両側に配置することによって、ドライバに負担をかけずに夜間でも安定した画像取得を可能とした。

3.2 差分画像による外乱光除去

夜間に対して昼間は太陽光の影響が大きく、画像センシングの処理に悪影響を与えやすい。特に一方向から光が当たったり、一部が窓枠にさえぎられたりすることによる影の影響によって顔の表面で大きな輝度差が生じる場合、顔を正しく認識することが難しくなることが多い。太陽光よりも強い照明を当てれば、相対的に太陽光の影響を軽減することはできるが、現実的ではない。このため、本センサでは差分画像処理によって外乱光の影響を軽減する技術を用いている。これは、照明オンの画像と照明オフの画像を連続して撮像し、次にこれらの差をとり、この差分を入力情報として利用するものである。図1はこの手法の効果を示したものである。左の図が照明オンで撮影した画像、中の図が照明をオフにして撮影した画像であり、右の図がこれらの差分画像である(ダイナミックレンジは適宜調整した)。元画像に見られる、影による左右の輝度差が大きく改善されていることが分かる。

図1 差分画像処理による外乱光の影響軽減

3.3 偏光フィルタによる反射光成分除去

図2 偏光フィルタによる反射光成分除去の仕組み

センサが照明を照射することによって、ドライバがメガネをかけている場合、角度によってはメガネ上に照明反射の輝点が生じることがあり、これによってカメラから目を認識することができないことが起こり得る。しかしドライバの目の状態(開閉状態、視線等)はドライバ状態を認識する上で非常に重要な情報であり、これが見えないことはドライバ状態認識の性能に重大な支障をきたす恐れがある。したがって本センサでは光学系の工夫によってメガネによる照明反射を軽減する仕組みを導入した。具体的には、偏光フィルタを用いて照明から出る光を偏光させ、カメラへ入射する光をそれと直交する偏光フィルタによって再度偏光させる。これによって、メガネからの反射光はカメラ前のフィルタで遮られ、人の顔や目などからの反射光のみがカメラに入射することになる。図2にこの仕組みを示す。図3はこの手法の効果を示したものである。

図3 反射光成分除去の効果:(左)フィルタなし、(右)フィルタあり

次週に続く―