伸縮導電伝送路とMEMSを利用した障害検知(2)

古田 兼三(ふるた けんぞう)
TSTジャパン(株)
代表取締役
古田 兼三

4. 橋梁点検へのシート型IoTセンサ利用

橋梁には様々な点検項目がある。その中で“たわみ量“と”亀裂“のモニタリング7)について考察する。

橋梁長:3m、たわみ量:1/300での各寸法
橋梁長:3m、たわみ量:1/300での各寸法

3mの橋梁で、たわみ許容量を1/300と仮定した。その際の数値は以下となる。
  δ(たわみ長): 3000mm x 1/300 = 10mm
  Θ :0.382°
  Δ(橋梁半分長の伸び): 33μm
Θ、Δとも非常に小さな値である。橋梁のモニタリングで予防保全を行うには、各数値の1/10程度の分解能のセンシング能力は必要と考える。

【加速度センサ】
様々の振動がある中で、微小なΘ角度を検知するには、以下の対応が必要。
・温度、ドリフト補正 → 補正機能つきMEMS加速度センサの採用
・外来振動の除去 → 帯域幅の最適化
さらにシート内にある複数センサの比較を行い、追加補正を行う。またセンサシートと橋梁との取付(接合)も重要な要素になってくる。

【伸縮センサ】
評価した伸縮伝送路長は10cmである。橋梁に取り付ける伸長センサの長さを1mと仮定した場合、単純な抵抗値変化量より、橋梁たわみ量を検知することは難しいことがわかる。橋梁で発生するひび割れ検知とひび割れ幅拡大をモニタするには、最低1mmの分解能は必要と考える。以下の要因ごとに試作と評価を繰り返し、精度向上を図っていく。

・異なる材質(導電材、ゴム、基盤など)
・異なる伝送路設計(線幅、線厚み)
・周波数特性(表皮効果での影響)
・伸縮伝送路と汎用伝送路(伸縮しない)を組みわせることで、特定エリアで精度向上


以下は、シート型センサを橋梁に設置し、既存の点検との組み合わせ例である。

橋梁の点検およびモニタリング、シート型IoTデバイスの設置例
橋梁の点検およびモニタリング、シート型IoTデバイスの設置例

5. 今後の予定

2025年に現場での実証実験を目指している。それまで以下のステップで進める計画である。
ステップ1
・ MEMSセンサ+伸縮伝送路(I2C通信)+制御部+LPWA無線を仮シート実装
・ MEMS加速度センサの各補正調整
ステップ2
・ 伸縮伝送路の改善→伸縮検知の分解能と精度向上
ステップ3
・ 各センサ間での補正および冗長性向上
ステップ4
・ 各点のデータから面データの作成
・ エッジAI機能踏査
ステップ5
・ 実証実験
・ 環境試験、耐久性試験

6. TST Sietemas社とTSTジャパンについて

TST Sietemasは、スペインSantanderで2007年創業し、欧州を中心にICT,IoTシステム・デバイス開発を行っている。TSTジャパンは2020年8月に大阪で設立し、日本市場向けの製品を日本企業および本社と連携して、製品開発を行っている。スペイン、日本とも、同じ高齢化問題、社会インフラ、自然災害などの共通課題がある。これらの課題を解決する商品開発を行っている。

TSTジャパン(株)ホームページURL:
https://www.tst-jpn.com/wordpress/



参考文献

  1. たわみ影響線及びたわみ曲線の変化率を利用した橋梁劣化箇所同定,
    市川辰旺,宮濱晃一,佐々木謙二,出水 享, 古賀掲維,島﨑航平,石井 抱,松田 浩
    実験力学 Vol.21, No.2


【著者紹介】
古田 兼三(ふるた けんぞう)
TSTジャパン(株) 代表取締役

■略歴
1982.3 同志社大学工学部電気工学科卒
1982.4 株式会社SCREENホールディングス(旧大日本スクリーン製造株式会社)入社
イギリス・ドイツ現地法人勤務
1999TUV Product Service Japan入社 EMC技術者
2004太陽誘電株式会社入社 EMCセンター、BQTF(Bluetooth認証ラボ)運用
BLE〈Bluetooth Low Energy〉規格策定などに従事
2011Southco(アメリカの機械部品メーカー)入社。 日本の現地法人立上
2014積水マテリアルソリューション株式会社入社。 IoT商品開発および普及・教育
2020.3 積水マテリアルソリューション株式会社を定年退職
2020.8 TST Sistemas,S.Aの日本現地法人設立。代表取締役就任。