次世代映像技術「空中映像・空中ディスプレイ」の開発(2)

前田 有希(まえだ ゆうき)
(株)パリティ・イノベーションズ
取締役研究開発部長
前田 有希

3.パリティミラーの非接触空中スイッチ・空中タッチディスプレイへの応用

 空中映像と各種非接触センサを組み合わせることにより,空中映像を触って操作する非接触空中スイッチが実現できる.エンターテイメント性に優れるだけでなく,実物体への指の接触がなくなるためウィルス等の接触感染対策として有効であると考えられる.空中映像を用いた非接触空中スイッチでは,操作者の指などが空中映像に触れているかどうかの判定を非接触で行う必要があり,比較的簡単な実現方法として距離センサの使用が考えられる.一例として,図7に示すように赤外線距離センサにより空中映像表示位置付近に物体が存在するかどうかを検出することで,非接触でOn/Off切り替え操作が可能な空中スイッチを実現できる.図7(b)の例ではパリティミラーを平置きにすることで空中映像が下から浮かび上がるように配置しており、図7(c)の例ではパリティミラーを縦置きにすることで空中映像が側壁から飛び出て見えるようにしている.このように、パリティミラーの配置方向を変えるだけで、スイッチの使われ方に応じて空中映像の表示位置に変化をつけることができる。

(a)
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(b)
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(c)
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図7 空中スイッチ.
(a)1ボタンタイプの側面断面模式図.(b) 1ボタンタイプの写真.(c)複数ボタンタイプを操作している様子.

 指の座標情報をカメラやジェスチャーセンサなどで取得することにより複雑な操作も可能となる.このタイプのシステムは空中タッチディスプレイと呼ぶことができる.300mm角のパリティミラーと赤外線ジェスチャーセンサと用いた空中タッチディスプレイのシステム概略図とデモ機操作の様子を図8に示す.

(a)
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(b)
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図8 空中タッチディスプレイ.(a)システム概略図.(b)非接触操作をしている様子

 図8の例ではタンポポが空中映像として表示されており,空中浮遊感を強く与えるためにタンポポ以外の背景を黒にしている.また,空中映像に触れたかどうかを操作者に伝えるため,指がタンポポの綿毛を表示している位置に来たとき,タンポポが揺れて綿毛が飛ぶと同時に効果音が流れる.単に空中映像を表示するのに比べて臨場感を強く感じることができ.視覚と聴覚によるフィードバックにより,空中映像に触って操作しているという感覚を強めることができる.一方,従来のタッチディスプレイでは操作面である液晶パネルより奥に指が突き抜けることはないが,空中ディスプレイでは指が操作面である空中映像結像位置を突き抜けてしまうため,上記のフィードバックを与えたとしても慣れるまでは思い通りの操作が難しい傾向にある.如何にしてユーザビリティを向上させるかが今後の課題である.

4.おわりに

 本稿では,空中映像表示のコア技術であるパリティミラーと,パリティミラーを用いた非接触空中スイッチの応用例について述べた.本稿執筆時点では新型コロナウィルス感染症の流行もいまだ収まらず,非接触空中スイッチに対する期待はこれまで以上に高まっている.将来的にも同様の感染症が流行する可能性があり,スイッチ類に直接触れることに対して人々の抵抗感が生まれる状況においては,空中スイッチは有効な解決策の一つとなりうる.今後の市場での普及に向け,空中映像と親和性の高いコンテンツの探索,より自然に操作ができるタッチ判定の手法や操作者へのフィードバック方法の開発が求められる.

株式会社パリティ・イノベーションズ ホームページURL:https://piq.co.jp/index.html



【著者紹介】
前田 有希(まえだ ゆうき)
(株)パリティ・イノベーションズ 取締役研究開発部長

■略歴
2015年3月 大阪市立大学大学院 工学研究科 後期博士課程 電子情報系専攻修了
2015年4月 株式会社パリティ・イノベーションズ 入社
パリティミラーを用いた空中映像表示技術の研究開発に従事。
一般社団法人 日本光学会 情報フォトニクス研究グループ所属(産学官連携担当幹事)