フロー式イムノセンサ-環境汚染物質ダイオキシン類及び炎症反応物 CRPの測定(2)

立石 典生(たていし のりお)
(株)シーズテック 京都バイオ研究所
所長代理
立石 典生

3.2 サンドイッチ方法

 サンドイッチ方法は測定対象となる抗原(検体)に対して抗体認識部位(エピトープ)が異なる2種類の特異抗体で挟み(サンドイッチ)、一方の特異抗体を蛍光標識2次抗体と反応して蛍光標識することにより蛍光量を測定する。高分子量抗原に対してエピトープの異なる2種の特異抗体で捕捉・検出することで特異性が高く感度も高い。
 フロー式イムノセンサを用いてサンドイッチ方法を適用する場合、例えば、測定対象となる生体内炎症反応物質CRP(分子量105,000)について、その化合物における別々のエピトープを認識し、互いの結合が拮抗しない2種類の特異抗体を抗CRP抗体Aと抗CRP抗体Bとする。測定は図4 (a) に示すように、抗原CRP、抗CRP抗体A及び蛍光標識2次抗体を混合すると、抗CRP抗体Aと蛍光標識2次抗体が反応して蛍光標識抗CRP抗体Aが生成し、抗原未反応蛍光標識抗CRP抗体Aと抗原CRP・蛍光標識抗CRP抗体A複合体が平衡して共存する。
 この溶液をセルへ送液すると、セル内にはあらかじめ抗CRP抗体B・BSAを固定化したビーズを充填してあるために、抗原CRP・蛍光標識抗CRP抗体A複合体と抗体Bが反応してビーズに捕捉される。未反応の蛍光標識抗CRP抗体Aを洗い流すと、セル内ビーズ表面に捕捉された抗原CRP・蛍光標識抗CRP抗体A・抗CRP抗体B複合体の蛍光標識に適した励起波長の照射による蛍光波長を計測することにより抗原CRP・蛍光標識抗CRP抗体A複合体の蛍光量を定量する7)
 図4 (b) のセンサグラムに示すように、CRPを含まないB0は、蛍光標識抗CRP抗体Aがセル内ビーズ表面に捕捉されないためにバックグラウンドとして取り扱い、抗原CRPを含む試料と蛍光標識抗CRP抗体Aを混合した測定溶液を送液した場合は、抗原CRP・蛍光標識抗CRP抗体A複合体としてセル内ビーズ表面に固定化された抗CRP抗体Bに捕捉されるため、その蛍光量測定に応じて抗原CRPを定量する。
 この方法は、抗原に対する2種類の異なるエピトープに反応する抗体があれば、毒性が高く取り扱いに制限のある対象物質の測定に適用できる。また、抗原に対する2種類の抗体の親和性の差が感度等に影響する。

図4 フロー式イムノセンサを用いたサンドイッチ方法―CRPの測定原理とセンサグラム
図4 フロー式イムノセンサを用いたサンドイッチ方法―CRPの測定原理とセンサグラム

3.3 適用拡大のための取組

 フロー式イムノセンサは、抗原・抗体反応を利用した測定装置であるため、特異抗体を作製・入手することで、分子量数百の化合物から数万のたんぱく質まで様々な対象物の測定に適用できる。これまでに環境分野における排出ガス、ばいじん、燃え殻、排水などのダイオキシン類の測定、絶縁油のポリ塩化ビフェニル(PCB)の測定、などの簡易測定を実現した。
 これらは環境省による簡易定量法マニュアルに公定法化されている。絶縁油の微量PCBの簡易定量として求められる要件は、真値と測定値の差が±20%以内(正確性)、繰り返し測定の変動係数が15%未満(繰り返し性)及び検出下限値が0.15mg/kg 以下(測定感度)という3つの基準をクリアする必要があった。繰り返し性については自動化したフロー式イムノセンサを用いることにより高い繰り返し性を実現し、測定感度については測定系に供する試料量を増大することにより達成した。
 ただし、測定系に供する試料量を増大することは、測定対象物であるPCB以外の妨害物質の影響により正確性に影響がある。したがって、PCB測定用の自動前処理装置を開発し、絶縁油の妨害物質を除去する精製操作により妨害物質による測定系への影響を低減することで、真値である機器分析値との高い相関性を達成して、定量化への認可を実現した。一方、環境水のダイオキシン類の測定に関しては、濃度が極めて低いために、3リッターの水試料について、抽出、濃縮、精製などの前処理を施した試料をフロー式イムノセンサで測定する方法を確立した。本測定方法は近くISO規格として発行される予定である。
 新たな測定対象の測定系を構築する上で、繰り返し性についてはフロー式イムノセンサ等の自動化装置に適用できる安定性の高い抗体が求められ、正確性は抗原・抗体反応に利用する抗体の特異性の高いことや高感度には抗原に対する親和性の高いことが必要である。それとともに、実試料の多検体を同時測定すること、並びに、フッ素化合物などの測定へ適用拡大することも重要課題である。
 一方、生体内炎症物質CRPの測定で示したように、病気診断に関係する物質測定、ウイルス、病原体、毒性物質等の測定への拡大が見込まれる。

4.小型化イムノセンサの開発

 フロー式イムノセンサは、操作が簡便であるだけでなく、データ解析は抗体の反応性の割合だけで、短時間で測定結果が得られるので、測定に不慣れな人でも使用できる。例えば、PCB測定では、産業廃棄物処理施設やオイルリサイクル施設等のPCB測定を必要とする現場での利用が多い。つまり、測定については可能な限りオンサイトで短時間(リアルタイム)で結果が得られることが求められる。

図5 小型化イムノセンサ図5 小型化イムノセンサ

 そこで、フロー式イムノセンサの外寸;W:470mm×D:300mm×H:510mm、重量;約27kgのサイズと重量を1/3に縮小した小型可搬型イムノセンサを近々発売する(図5)。この小型化イムノセは送液をエアー系でかつ送液の切り替えにバルブレス(現在特許申請中)を採用したことにより、多検体測定によるクロスコンタミネーションの軽減あるいは消耗品費の削減を可能にする。
 この小型可搬型イムノセンサはいつでもどこでも測定でき、しかも、リアルタイムに結果が得られることから、緊急度の高い測定の現場での活用が期待できる。この測定装置を活かして、さらなる測定分野への適用拡大を図るためには新規対象物質等に対する特異抗体の作製・入手が急務となる。

謝辞
岡山理科大学の藤谷 登 教授、畑 明寿 准教授にはCRPの測定に関して、また神戸大学の大川秀郎 名誉教授には原稿執筆に関して、有益なご助言を賜りました。厚くお礼申し上げます。


(株)シーズテック 京都バイオ研究所 ホームページURL:
https://seedstec.co.jp/seedstec/kyotobio/index.html



参考文献

  1. Tomoko Kubota, Norio Tateishi, Hideki Toita, Nobutoshi Kanaki, Akihisa Hata, Noboru Fujitani, “Development of a canine blood C-reactive protein-measuring device using a flow-type immunosensor,” Analytical Sciences, 38 (10), 1269-1276 (2022)


【著者紹介】
立石 典生(たていし のりお)
株式会社シーズテック 京都バイオ研究所 所長代理

■略歴
2003年 京都電子工業株式会社 入社
2004年 愛媛大学農学部環境分析化学(京都電子)講座 助手兼任(2007年3月まで)
2017年 株式会社シーズテック 入社(~現在に至る)