漏れ試験について(2)

(株)フクダ
標準品技術部
井元 宏行

3.3. ヘリウム漏れ試験方法

  • 概要
    ヘリウムガスをサーチガスとし用いて漏れを検出する試験方法。一般にヘリウムガスの検出にはヘリウムディテクタを用いる。
  • 特徴
    定量的に測る手法、漏れ位置の特定が出来る手法など豊富な手法がある。大気中のヘリウムガス濃度は、体積分率5×10−6、不活性なガスであり、また分子径も小さいため微少な漏れの検出に優れている(一般に使用される漏れ試験方法の中で最も検出感度が高い)。
  • 対応規格
    JIS Z 2331
  • 試験手法
    1. 真空法(試験体へのガス流入法): 試験体内部を真空にして外側をヘリウムガスで覆い欠陥部より流入するヘリウムガスを検出する手法。主なものは、次のとおり。
      • 真空外覆法(真空フード法): 試験体内を真空にし、試験体の一部又は全体をヘリウムガスで覆い欠陥部より試験体内へ流入するヘリウムガスを検出する手法。定量性がある。
      • 真空吹付け法(スプレー法): 試験体内を真空にし、ヘリウムを試験体の外側の試験面に吹付けプローブで吹き付け、欠陥部より試験体内へ流入するヘリウムガスを検出する手法。漏れ箇所の特定に向く。試験技術者の習熟が必要。
    2. 加圧法(試験体からのガス流出法): 試験体内にヘリウムガスを封入し、外部に流出するヘリウムガスを検出する方法。主なものは、次のとおり。
      • 吸込み法(スニッファ法): 試験体内にヘリウムガスを入れ、試験体の外側に流出するヘリウムガスをスニッファプローブで吸い込み、漏れを検出する方法。漏れ箇所の特定に向く。試験技術者の習熟が必要。
      • 吸盤法(サクションカップ法): 試験体内にヘリウムガスを入れ、試験体の外側に漏れ出すヘリウムガスを、試験部に当てたサクションカップで吸い込み、漏れを検出する手法。ある程度の漏れ位置の特定、定量性がある。
      • 真空容器法(ベルジャー法/チャンバ法): 試験体を真空チャンバ内に置き、試験体内部にヘリウムガスを入れ、試験体からチャンバに漏れ出すヘリウムガスを検出する手法。定量性がある。
      • 加圧積分法: 試験体内にヘリウムガスを入れ、試験体の一部又は全部をフードで覆い、試験体の外側に流出するヘリウムガスをフードに蓄積させ、スニッファプローブを用いて検出する手法。定量性がある。
    3. ボンビング法(試験体へのガス流入流出法): ヘリウムガスをボンビングチャンバ内に充填し、試験体にヘリウムガスを浸漬させた後、試験チャンバに移しチャンバ内を排気し、試験体から漏れ出すヘリウムガスを検出する手法。加圧、排気口が無い封止された試験体に適用される。大きな漏れの検出に向かない(又は出来ない)。試験手法と試験体の知見が必要(詳細は対応規格参照)。
  • ヘリウムリークディテクタ
    ヘリウムディテクタの構造例を図5に示す。試験体/チャンバは、予め外部に取り付けた粗引きポンプにより減圧されテストポートに接続される(試験体の容積が小さい場合は、ディテクタの補助ポンプで粗引きすることもある)。始めテストバルブは閉じられ、粗引き・フォアバルブからの逆拡散(カウンターフロー)により分析管に届いたヘリウムガスを測定する。測定の結果が所定の値より低いことを確認し、テストバルブを開けて感度を上げた測定を行う。
    ヘリウムガスの測定は分析管で行われる。磁場偏向形の質量分析計を採用しているものが多い。偏向角は複数存在するが、180度偏向分析管を例に検出の原理を説明する(図6参照)。
    分析管に導入されたガス分子がイオン化室に入り内部に設けられたフィラメントより放出された熱電子と衝突すると、ガス分子の最外殻電子がはじき出されイオン化する。イオン化したガス分子はイオン化室と分析部の間に印加された加速電圧で加速され分析部に入る。分析部には、磁界が掛けられていて、イオン化した分子が移動するとローレンツ力を受け軌道が変化する。変化する軌道はイオン化された分子の重さにより異なるので、ヘリウムイオン分子の軌道に合わせて、イオンコレクタを配置するとヘリウムガスを検知できる。
図3 エアリークテスタの回路例
図3 エアリークテスタの回路例
図4 差圧センサの構造例
図4 差圧センサの構造例

4. 試験方法の選択

試験体に関する規格があり、試験方法が規格で指定されている場合はそれに従えばよいが、定められていないものも多い。そのときは、試験方法を選択しなければならない。どの試験方法を採用するかは、要求される判定漏れ量と試験方法の最小可検漏れ量(条件により変わるものが有るので注意)、試験体の特性(容積、試験圧力、検査面の肉厚、材質、排気/加圧口の有無、試験で使用する媒体の影響など)、試験目的(漏れ位置の特定の要否、定量性など)を鑑み、各試験法の特徴と照らし合わせて決める。

5. 考慮すること

非破壊試験では、欠陥部の特性(位置、大きさ、深さなど)を明らかにする。しかし、漏れ試験で測定する“漏れ量”は、漏れ出た媒体の量であって欠陥部そのものではない。しかもその漏れ量は欠陥部の入口と出口の圧力差が変化すると変わってしまう(温度によっても変化する)。漏れ量として閾値を定量化しても、試験条件でその量が変化することに注意する必要がある。
また、漏れ量は媒体により変わる。ヘリウム漏れ試験では、試験のためにヘリウムガスを試験体に充填し測定する。しかし、実使用時の媒体が水だとすると、同じ欠陥でも水の漏れる量はヘリウムガスと異なる。漏れ試験は、そのほとんどが実際の状況とは異なる試験であり、製品の実使用での規格と整合させなければならない。
“漏れが無い”という言葉を耳にすることがある。例えば、水を入れて漏水がないことを確認した容器があったとする。この容器に圧縮空気を充填して発泡剤を塗布したところ漏れを発見した。この容器は漏れがあるのか、漏れは無いなのか。この容器で水を貯めるならば問題は無いが、圧縮空気を蓄圧するには支障がでる。このように、“漏れが無い”とする言葉には“仕様上・実使用上で問題の無いとする漏れ”、“実施した試験方法の検出感度より少量で検出できない漏れ”が含まれている。合否を判定することは、閾値未満の漏れは許容することでもある。“漏れが無い”の言葉のままに試験法を決めると、過剰な品質、コスト高な試験を実施することになる。



引用・参考文献

  • 1) JIS Z 2300:2012 非破壊試験用語
  • 2) JIS Z 2330:2012 非破壊試験−漏れ試験方法の種類及びその選択
  • 3) JIS Z 2329:2019 非破壊試験−発泡漏れ試験方法
  • 4) JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法
  • 5) JIS Z 2332:2012 圧力変化による漏れ試験方法
  • 6) 一般社団法人 日本非破壊検査協会編集 漏れ試験Ⅱ(2012) 一般社団法人 日本非破壊検査協会 発行


【著者紹介】
井元 宏行(いもと ひろゆき)
株式会社 フクダ 標準品技術部

■略歴
1983年に㈱フクダに入社
以来,圧力変化漏れ試験,水素漏れ試験に関連する試験機の設計,開発に携わる。