ハイリスク薬の血中濃度をリアルタイムに検出する使い捨てセンサチップ

芝浦工業大学 工学部応用化学科・吉見靖男教授らの研究チームは、テオフィリンの血中濃度をリアルタイムに検出する使い捨てセンサチップを開発した。
テオフィリンは喘息など様々な呼吸器疾患の治療に有効だが、過剰に摂取すると強い毒性を示すハイリスク薬剤である。そのため、治療中にテオフィリンの血中濃度をモニタリングすることは極めて重要である。今回、新たに開発したセンサでは、わずか3秒で血液試料から直接テオフィリンの濃度を検出できる。
※この研究成果は、「Molecules」誌オンライン版に掲載されている。

ポイント
・血液サンプル中のテオフィリン濃度を検出できるセンサを開発
・開発したセンサは、わずか3秒という短時間で薬物を検出可能
・その他のさまざまな薬剤のセンサへの応用にも期待

研究の背景
気管支を拡げる薬のテオフィリンは、喘息や肺炎などの呼吸器疾患の治療に使われているが、過剰に投与された場合、頻脈や頭痛などの副作用を引き起こすことがある。そのため、治療中のテオフィリン濃度をモニタリングすることは極めて重要である。しかし、従来のモニタリング技術は専門家のみ実施できる複雑な手順を必要とし、時間とコストも要してしまうとのこと。

研究の概要
モニタリング技術に関する課題を解決するために、吉見教授らは分子インプリントポリマー(MIP)を用いることで、簡単で高感度、かつ高速・安価な電気化学センサを開発している。MIPは、私たちの体にある抗体のように、特定の標的分子を認識し、結合できる分子空隙を持ったプラスチックである。このMIPは、薬物検出をはじめとするさまざまな用途に期待されているが、あまり実用例は無い。
今回、研究チームは、MIPを固定した電極と紙・PETフィルム製の基板で構成される使い捨て型のテオフィリンセンサを開発した。テオフィリンを鋳型とするMIPを表面固定した、カーボンペーストを開発。このペーストを、センサ基盤に搭載し、テオフィリンの検出能力を評価した。
その結果、開発したセンサは微量のテオフィリンも高感度で検出し、一方、他の薬剤にはほとんど応答を示さないことが確認された。実際に、テオフィリンが2.5μg/mL(μg=マイクログラム、1ミリグラムの1000分の1)という低濃度で含まれる血液サンプルからも、安定した検出ができた。そして、このセンサがテオフィリンを検出するのに必要な時間は、わずか3秒だった。

今後の展望
本研究で開発したセンサ技術は、抗菌薬や抗ガン剤、免疫抑制剤など、さまざまなハイリスク薬のモニタリングにも応用できると考えられる。携帯可能で、かつ測定時間が短く、操作が簡便なため、病院外の検査機関に頼ることなく、様々な薬物の濃度を患者の側で検出できる。また、このセンサは、安価であるため、発展途上国への普及も期待できるという。

研究助成
本研究は科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の一部支援を受けたもの。

プレスリリースサイト(shibaura-it.ac):https://www.shibaura-it.ac.jp/news/nid00002396.html