高コヒーレンス波長掃引光源を用いたOFDRによる3次元形状計測(2)

腰原 勝
アンリツ(株)
センシング&デバイスカンパニー
腰原 勝
斉藤 崇記
アンリツ(株)
センシング&デバイスカンパニー
斉藤 崇記

4. OFDRによる形状計測

4.1 OFDR測定系の構成

 これまで示したOFDR測定系を実際に構築し、形状測定を行った。構築したOFDRシステムの外観写真を図3に示す。可搬性を考慮し、図2で示した波長掃引光源(AQA5500P)、光干渉計、受光器の他に、データ取得用のA/D変換ボードを1筐体に収めた。筐体サイズは370(W)×180(H)×340(D) mmであった。測定対象物へ光を照射するためのコリメータレンズ部は2自由度の回転ステージ上に固定し、筐体内に搭載した自動ステージコントローラによって2次元的に走査する構成とした。これにより、測定対象物の表面形状を測定できる構成とした。A/D変換ボードでサンプリングしたデータを解析、表示するためのPCは筐体外部に配置した。

図3 形状測定系の外観写真および構成
図3 形状測定系の外観写真および構成

4.2 車体側面の形状計測

 はじめに、車体側面の形状測定を行った。車体の大きさは、1.5(H)×4.4(W) m程度である。コリメータレンズは、車体から4.5 mの位置に置き、車体からの反射光パワーが最大となるように焦点距離を調整した。また、自動ステージを用いて縦方向φ±12°、横方向θ±27°の角度を走査することで、縦1.9 m、横4.6 mの範囲を測定した。波長掃引幅を24 nmとし、中央の線形性の高い10.5 nmの範囲を測定に用いた。これにより、理論分解能は113 µmとなる6)。波長掃引幅を広く設定することで分解能は向上するが、干渉信号の周波数は高くなる。また、測定距離を伸ばすことでも干渉信号の周波数は高くなる。測定系の周波数の上限はA/D変換ボードや受光器の帯域で決まる。ここで設定した波長掃引幅はAQA5500Pの製品仕様外での設定値ではあるが、長距離での測定を実現するため分解能を低くして測定を行った。なお、AQA5500Pの最大掃引幅は110 nmであるため、測定距離を短く設定すれば分解能は約10倍程度まで向上させることができる。
 測定の安定度を評価するため、定点測定を行った。コリメータレンズの位置を固定し、車体のドア付近を10秒間測定したところ、標準偏差(σ値)で5.6 µmであった。図4(a)に測定対象である車体の写真を、図4(b)に形状測定の結果を示す。形状測定の結果表示は縦500×横500ピクセルとした。測定箇所を分割して、その区域ごとにOFDRシステムの位置を移動させることなく、比較的大きな車体側面全体を一度に測定できている。図4(c)~(e)に、車体中央付近の断面図を示す。図4(e)に示した拡大図より、50 µm程度のリップルが観測されているが、遠距離から高精度に測定できている。

図4 車体側面の形状測定結果
図4 車体側面の形状測定結果

4.3 大型タンクの形状計測

 次に、大型タンクの形状測定を行った。本測定では波長掃引光源にAQB5500Pを用いた。AQB5500PはAQA5500Pに比べてコヒーレンス長が長いため、より長距離の測定が可能である。タンクの大きさは、8.5(H)×2.5(W) m程度である。コリメータレンズは、タンクから20 mの位置に配置し、自動ステージを用いて縦方向φ42°、横方向θ36°の角度を走査した。波長掃引幅を15 nmとし、中央の線形性の高い8.4 nmの範囲を測定に用いた。これにより、理論分解能は140 µmとなる6)
 前節で示した車体の形状測定と同様、測定の安定度を評価するため、定点測定を行った。コリメータレンズの位置を固定し、タンクからの反射光を30秒間測定したところ、標準偏差(σ値)で15 µmであった。図5(a)に測定対象であるタンクの写真を、図5(b)、(c)に形状測定の結果を示す。(b)に示す形状測定の結果表示は縦500×横500ピクセルとした。図5(c)より、20m先のタンクだけでなく、その後方10m程度(コリメータレンズからの距離30m)の距離まで測定できている様子が確認できる。

図5 タンクの形状測定結果
図5 タンクの形状測定結果

5. OCTへの応用

 測定対象物が光を透過する材質で構成されている場合、内部の屈折率境界面で反射された光を受光することにより、内部構造を可視化するOCTとしても利用することができる7)。図6(a)に測定対象であるポリプロピレン製の容器の写真を、図6(b)にOCT画像の全体図を、図6(c)に容器頂点部分の拡大図をそれぞれ示す。図6(b)に示すOCT画像の画素数は縦4027×横500ピクセルとした。図6(b)より、35 mmの距離を一度に測定できていることが分かる。また、図6(c)より、樹脂内部に層状の屈折率分布があり、縞模様として可視化されていることがわかる。測定深度が深くなるほど光量が減少するため鮮明度は低下しているが、4枚の容器がすべて確認できる。

図6 4枚のポリプロピレン製容器を重ねた場合のOCT測定結果
図6 4枚のポリプロピレン製容器を重ねた場合のOCT測定結果

まとめ
 アンリツ製波長掃引光源の製品仕様について説明した後で、本器を利用したOFDRによる形状測定について実測例と共に示した。高コヒーレンス性を特長に持つ当社製波長掃引光源を利用することで、大型の構造物を遠距離から一括で測定できることを示した。また産業用OCTへの応用についても言及した。
 本波長掃引光源は、その他の産業分野でも応用が期待できる。例えば、高コヒーレンス性の特長を利用して、手の届かない高所や、近距離からの測定が困難な高温部の形状や振動を遠距離から測定する用途が考えられる。また、光の透過性を利用して、ケースや恒温槽内部に置かれた対象物の経時的な形状変化や振動を槽外から窓を通して測定する用途などにも応用が可能である。更に、最大110 nmの広い波長掃引幅の特長を活かして、光デバイスの反射・透過特性の瞬時測定が可能であるなど、さまざまな用途で応用が期待できる。

参考文献

  1. 斉藤崇記,“高コヒーレンス波長掃引光源を用いた高精度形状測定”,IEICE Technical Report, OFT2020-43(2020-11).
  2. 腰原勝,“高コヒーレンス波長掃引光源を用いた光干渉測定”,光アライアンス,2021.11.


【著者紹介】

腰原 勝(こしはら まさる)
アンリツ株式会社 センシング&デバイスカンパニー 開発本部 第1開発部 主任

■略歴
2005年 法政大学大学院工学研究科情報電子工学専攻 修了。
同年、アンリツ㈱入社
その後、光計測器や波長掃引光源など、機器製品の設計開発業務に従事
現在に至る

斉藤 崇記(さいとう たかのり)
アンリツ株式会社 センシング&デバイスカンパニー 開発本部 第1開発部 主席研究員

■略歴
1988年 東京都立大学大学院理学研究課程物理学専攻修了。 同年アンリツ株式会社入社。 1993年 神奈川科学技術アカデミー大津「フォトン制御」プロジェクト派遣研究員。 光周波数コム発生器の研究に従事 1996年 アンリツ株式会社に復帰
1998年 東京工業大学より学位授与(工学博士)
現在、アンリツ株式会社センシング&デバイスカンパニー主席研究員。
ファイバセンシング、OFDRによる3次元形状測定等の研究に従事