画像処理・画像解析による医療支援 〜内視鏡と画像強調解析における画像センサの役割〜(2)

納谷 友希
徳島大学大学院医科学教育部
医学研究科
徳島大学ポストLED
フォトニクス研究所
納谷 友希
髙成 広起
徳島大学ポストLED
フォトニクス研究所
髙成 広起

4.医療診断に求められる画像

 疾患の画像診断では、画像には「細かい病変まで見える」「病変と正常の境界が明瞭に見える」「経時変化が分かる」など多くの条件が求められる。画像センサのスペックはこれらの条件を満たすか否かを左右する重要な因子だが、中には両立が困難な条件も存在しうる。そのような場合は各条件に優先順位を設定しつつ、診断画像の用途に応じた必要条件を洗い出す必要がある。本稿後半では、画像診断装置の開発で考慮すべき画像の評価について、血管を例に挙げて概説する。

5.血管画像の評価

 データを評価するには主観的手法と客観的手法がある。主観的評価は観察者の受ける印象や感覚に基づくため、定量化が難しい、個人差によりばらつく、等の問題点がある。ただし主観的評価は現場の声を反映することもあり、医療機器開発で医師や看護師の主観的評価を取り入れることも少なくない。一方で客観的評価は物理パラメータを数値化するため、基準値による比較評価が可能である。開発製品を、先行・競合する製品と比較する際、客観的データは不可欠である。画像診断装置の場合、主に画像センサの解像度(画素数)や画像取得の更新頻度(サンプリングレート)が比較されるが、前者は空間分解能、後者は時間分解能に関係する。微小な病変を検出するには高い空間分解能が求められ、刻々と変化する生体の形態や性状の変化をリアルタイムで観察するには時間分解能が求められる。近年は画像センサが発達し、高精細な画像をリアルタイムに取得できるようになり、内視鏡などの画像診断装置に活かされている。

 画像センサのスペックとは別に「得られた画像からどのような印象を受けるか?」という評価もある。「被写体の輪郭が明瞭か」あるいは「画像の明暗がはっきりしているか」といった指標で、私達が画像から受ける印象は大きく変わる。主観的評価のようでもあるが、前者はシャープネスとして観察対象のエッジ付近の画素における階調変化を指標に、また後者はコントラストとして階調分布を指標に、それぞれ定量評価できる。

 私達は、単色照射光の波長や半値幅を変化させた場合に、得られる画像のシャープネスとコントラストがどのように変化するかを検証し、血管の強調画像分析にどのような光源が適しているかを考察した。画像のシャープネスは血管の輪郭部の鮮明さを指標とした。一方で血管内のコントラストは、血管で吸収される光の波長や散乱光の量に依存することから、血管の深さ情報を知りうると考えた。生体に光を照射した場合、波長の異なる青色光と緑色光では照射光到達深度が異なる。浅層に位置する血管では青色光と緑色光の両方が吸収されるために血管は黒く描出される。一方で深層に位置する血管には青色光が到達せず、緑色光のみが吸収されるため、合成画像の血管は薄いシアンに描出される。従って血管の走行位置が深くなるにつれて、合成画像の血管は黒色から薄いシアン、さらに薄い白色になると考えられる。図3に実際に用いた光学実験系を示す。白色光源とバンドパスフィルタの組み合わせで複数の中心波長・線幅を持つ光をマウスの耳組織(皮下の血管観察)に照射し、対物レンズ・結像レンズを介してモノクロCMOSカメラ(ThorLabs社製、1,920×1,080 pixel)で撮像した。撮影画像は画像解析ソフトウェアFiji Image J(ver. 1.53c)を用いて処理・解析した。

図3. a) 光学実験系のセットアップ、b) 光路の模式図
図3. a) 光学実験系のセットアップ、b) 光路の模式図

 合成処理した画像(図4a)で血管を横断する線(黄線)に沿って階調変化を微分すると、血管輪郭のシャープネスが理解できる(図4b)。さらに血管内部の明度分布をコントラストとし、シャープネスとコントラストの分布を見ると図4cのようになる。415 nm青色光の場合にシャープネスが、440 nm青色光の場合にコントラストが高くなった。血管画像のシャープネスとコントラストはある種トレードオフの関係にあり、毛細血管のような細かい血管を明瞭に可視化するには415 nm青色光が、大きな血管の深さ情報を得るには440 nm青色光が、それぞれ適している可能性がある。本研究結果はあくまで照射光による画像の見え方の違いを評価したのみであるため、さらなる研究が必要だが、センサのスペックや空間フィルタによって血管の情報をより的確に把握できるようになる可能性もあり、医療画像診断の高度化において画像センサや画像処理技術が潜在的な可能性を持つことを示唆する一例と考える。

図4. a) マウス皮膚の血管画像、b) 血管を横断する線上の輝度変化とその一次微分、c) 血管輪郭部のシャープネスと血管内部コントラストの分布
図4. a) マウス皮膚の血管画像、b) 血管を横断する線上の輝度変化とその一次微分、
c) 血管輪郭部のシャープネスと血管内部コントラストの分布

6.今後の医療に求められる画像センサ

 現代医療では今まで以上に診断・治療の低侵襲化や、疾患の早期診断に資することが求められている。内視鏡はCCD画像センサを内蔵したビデオスコープの開発によって、消化管領域の診断・治療に革命をもたらし、当該技術は腹腔鏡・胸腔鏡などの低侵襲手術に繋がる。さらに内視鏡の侵襲性低減を目指したカプセル型内視鏡など、医療機器の小型化・低侵襲化の歩みは止まらない。装置の小型化に伴って、画像センサもスペックを維持しつつ小型化する必要がある。

 2020年初頭から猛威を振るい、未だ終息の兆しが見えない新型コロナウィルス感染症は医療も大きく変化させつつある。以前より地域医療の分野では、地方の高齢者を対象として遠隔診療の重要性が指摘されていたが、人同士の接触を極力減らすべきWithコロナ時代では、都市部でも遠隔診療の需要が急速に拡大している。このような状況で患者の身体情報を正確に医師に伝達する手段として、画像センサの高度化と共に、画像情報を適切に処理・解析して情報化するIoT技術との融合が必要となるであろう。

謝辞
 ポストLEDフォトニクス研究所の鈴木秀宣先生には画像解析に関して、また江本顕雄先生にはデータ解析や原稿執筆に関して、多くのアドバイスを頂いた。この場をお借りして御礼申し上げる。



【著者紹介】

納谷 友希(なや ゆうき)
徳島大学大学院医学研究科医科学専攻 生体防御医学分野
徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 医光融合研究部門

■略歴
2017〜2021年 徳島大学理工学部 理工学科 情報光システムコース(光系)
2021年〜 徳島大学大学院医科学教育部 医学研究科 医科学専攻

理工学部から「医学と光技術を融合させた研究」に興味を持ち、徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所医光融合研究部門の髙成研究室で卒業研究を行う。現在も同研究室にて修論研究に従事している。

髙成 広起(たかなり ひろき)
徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 医光融合研究部門 准教授

■略歴
2000年 名古屋大学医学部医学科 卒業
2011年 名古屋大学大学院医学系研究科 学位(医学)取得
2011〜2013年 University Medical Center Utrecht(オランダ) 博士研究員
2013〜2016年 大分大学医学部 病態生理学講座 助教
2016〜2019年 徳島大学病院 糖尿病対策センター 特任講師
2019〜2022年 徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 医光融合研究部門 特任講師
2022年〜 現職

6年間の臨床医としての経験を経て基礎研究へ転身。主に細胞や生体の生理機能を視覚的に捉えるバイオイメージングの研究を行う。2019年から徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所医光融合研究部門に所属し、「医学と光技術を融合させた研究」を目指して、従来のバイオイメージングに加えて新しいイメージング法の開発などに従事している。