ロボットセンサの基礎知識(4)

東北学院大学工学部
機械知能工学科 教授
熊谷正朗

一方の外界センサは、ロボットが「環境の中で」「環境に対して」動作するために必要となるものである。その作業によっては必須なものであり、場合によってはロボット本体より選定の優先度が高く、目的を達成するためのセンサ・センシングシステムを先に選定して、それを有効に機能させられるようにロボットを選定・開発することになる。いわば、ロボットのためのセンサではなく、センサのためのロボットである。そのため、「なにをしたいか」を検討する時点で、センシングの検討を始める必要がある。内界センサは計測内容にさほどバリエーションがなく、センサ手法の選定よりはセンサそのものの性能的な選定が主体であることに対して、外界センサは目的に直結しているわけである。

外界センサの代表例はカメラである。実際にはカメラはセンサ本体であって、より重要なのはその後の処理認識判断系である。生産設備のような限定された環境で用いる場合は、カメラとあわせて照明も検討対象となり、照明のあて方次第で処理のしやすさが大きく変わることも多い。一方で自動運転をはじめとする屋外環境で使う場合は明るさの変化の幅が極端に大きく、かつ時間帯や天候でそもそも光源(太陽や雲など)が変わるため、カメラのダイナミックレンジが要求されるとともに、処理の難易度が高い。これもコンピュータ性能の向上とともにリアルタイム処理の幅が広がっているが、とくに複雑な環境での認識についてはまだまだと言える(人間とロボットの差は、身体運動については近づきつつある印象があるが、視覚認識処理に関してはまだ桁違いの差を感じる)。

環境内でのロボットの自律移動でしばしば用いられるセンサに(スキャン式)レーザーレンジファインダ(LRF: Laser Range Finger)、LiDAR(Light (Imaging) Detection and Ranging)がある。光を用いた距離計測には、三角測量型(前述のPSDセンサ、カメラ複数台によるステレオビジョン、パターン光源とカメラによるアクティブステレオビジョン等)と、(レーザ)光を飛ばして反射してくるまでの時間を計測するTime of Flight (ToF)型に大別される。より以前から利用されてきた超音波を用いた距離計測(超音波厚さ計も同系統手法)は、超音波を短時間出して反射してくる音を計測するToF型であるが、音が3×10の2乗[m/s]のオーダであることに対して、光は3×10の8乗[m/s]のオーダであるため、光のToFでは距離分解能を得るために時間分解能が非常に要求される。たとえば、1[ns](=1[GHz]の周期)の間に光は0.3[m]進む。言い換えれば、1[ns]単位で計測しても、往復150[mm]の分解能しか出ない。光学系の工夫や光出力を上げることで、数十[m]の測定が可能な一方で分解能を出しにくいが、これも半導体技術の進歩で高性能化しつつ手が届きやすくなってきたセンサである。スキャン式LRF、LiDARは光の送受部とともに、回転するミラーや振動するミラーなどを備え、装置から扇形に(一般に面状(1次元スキャン)に、ものによっては空間に(2次元スキャン))様々な方向に対して計測し、装置を起点とした空間の限界(壁や物体)までの距離が計測できる。これを処理することで周囲の障害物や、近づいてくる人間、作業対象の形状を得ることができるほか、ロボットの移動に伴って順次重ね合わせていくことで地図を作り、その地図上での自身の位置も推定するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)手法の代表的なセンサでもある(以前はSLAMというとLRFが前提であったが最近はカメラを用いるビジュアルSLAMの研究が盛んである; カメラのほうが低コスト)。また、受光・距離(時間)計測部をカメラ画素のようにアレイ状に並べることで、同時に多点の距離計測を可能とするものも発達しつつある。ただし、これらは環境の明るさに打ち勝つだけの光をこちらから出す必要があり、直射日光下での運用には、屋内に比べて制約がある。単なるカメラは環境から受け取るだけの「受動的な:パッシブな」センサであることに対して、超音波、光のToFはこちらからも環境に働きかける「能動的な:アクティブな」センサであり、測定できることは広がるが、環境負けしないことが必要となり、またアクティブセンサ同士の干渉しないような配慮も必要である。

まず先に、いまどき流行の外界センサをあげたが、たとえば、工場等での自動搬送を可能とするような床面のラインを検知するセンサ(光反射センサ・近接センサ)も外界センサと言える。また、境界上であるが、接触センサや、作業対象との間に挟む力センサも外界センサといえる。接触センサの場合は単なるスイッチ的なものが多いが、力センサの場合は単軸のセンサ他、3方向の力成分、3方向のトルク成分を同時に計測できる6軸力覚センサもあり、腕ロボットの手先に作用する力を見ながら、面にならった作業をさせることなどに使うこともできる。これもまた、以前よりはコスト的に手が届きやすくなってきた印象がある。近年では、福祉ロボット分野や、人と協調動作するロボットへの期待が高まってきており、これらの相互作用を計測するセンサの重要度は上がるといえる。ただ、従来のロボット・生産設備等は動作時に人間を隔離することで安全性を確保する思想であったことに対して、これらのロボットは接触状態を前提とする点で、それ自体の安全性への要求は非常に大きい。センサに基づく安全確保は、センサの不具合やノイズ、他の干渉などによる誤動作のリスクがあるため、なんらかの本質的な安全性の確保や、センサの多重化、認識の複合化といった、センサよりもセンシング一式としての十分な安全性が求められ、難しい分野といえる。

余談であるが、よく、センサは人間の感覚にたとえられる。たとえば、視覚に対応するものは、カメラ+画像認識処理である。興味深いのは、人間の感覚としてよく知られる「五感」である、視覚、聴覚、触覚は物理的な外界センシング、味覚、嗅覚は外部から人体に取り入れるものを判定するための化学的な外界センシングである。では、人間の内界センシングはというと、平衡感覚の三半規管と平衡斑、「熱っぽいな」などの温度感覚、間接的に関節・身体形状を推定できる筋肉の長さの感覚、「おなか空いた」などのエネルギー系の感覚など、ちゃんと多様に存在し、身体の維持や動作に不可欠である。

おわりに

以上、ロボット用のセンサという観点で概要を述べた。個別の用途ごとのセンサについては、本サイトやネット上の各種情報を検索いただくとして、全体的な概要について、読者の方々の参考になれば幸いである。

著者
熊谷正朗(くまがいまさあき)
東北学院大学工学部 機械知能工学科 教授
略歴:
2000年 東北大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。同年 東北大学助手。2003年東北学院大学講師、助教授、准教授を経て、2013年教授。2008年より仙台市地域連携フェローを兼任。
主にメカトロニクス、ロボット系の講義を担当し、仙台市地域連携フェローでも「基礎からのメカトロニクスセミナー」を実施。