浮体式洋上風力発電の水槽模型試験における計測技術について (1)

(国研)海上・港湾・航空技術研究所
海上技術安全研究所
中條 俊樹

1.はじめに

 我が国の洋上風力発電は、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(「再エネ海域利用法」)が2019年に制定される等、環境整備が進みつつある。さらに、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」は洋上風力産業ビジョン(第1次)1)において、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札と位置付け、導入目標を2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500万kWの案件を形成するとしている。
 浮体式洋上風力発電は着床式に比べ普及は遅れてはいるものの、国内外で複数の実証試験を経て商用展開が開始されている。我が国においては福島県沖の実証研究は終了したが、グリーンイノベーション事業2)の開始もあり、開発の機運が再び盛り上がっている。
 浮体式洋上風力発電の安全性の検証には、数値計算と並び水槽模型試験が重要である。本稿では、当所で近年実施した水槽試験について、風車の大型化と合わせ紹介する。

2.水槽模型試験の目的と供試模型

 水槽試験の主な目的は、構造物の基本的なコンセプトの確認や安全性の検証等が考えられるが、より詳細には、例えば以下が挙げられる3)

・ 浮体形状ごとの動揺等を把握する実験
・ 動揺制御を目的とした実験
・ 数値解析の検証を目的とした実験

 また、物理的・数値的な実験結果に基づいて、船舶や海洋施設に関する模型試験や実船試験の標準的手法を提言する世界的な団体であるITTC(International Towing Tank Conference)によれば、試験目的を新技術の開発のレベルを評価するための指標である技術成熟度(TRL: Technological Readiness Levels)と模型縮尺について関連付け、コンセプトの確認や大まかな意味での最適化が主目的となるTRL1~3で1/100~1/25、実機に向けた種々の環境要因を取り込んだ性能評価(主に水槽実験、規模と目的によっては実海域)が主目的となるTRL4~6で1/25~1/10、主に実海域での実証実験であるTRL7~で1/5~1/1の縮尺を想定している4)
 一方で、試験施設には寸法上、性能上の制約があり、必ずしも狙った通りの試験が実施できるわけではない。上記3)によれば、可動部や制御系を搭載する最も多くの試験模型は、縮尺1/30~1/70程度である。
 近年、風車は図1に示すように大型化しており、その大きさ・質量を幾何学的相似則で縮尺すると、10MWおよび15MWの参照風車は表1の通りとなる。縮尺1/50の場合、15MW風車ではロータ直径は5m近くになり、送風範囲としては6m×5m程度以上の送風面積が必要となる。この送風面積は、浮体の波浪中の動揺を考慮すれば、より広い面積が必要となる。このような送風面積に対応する送風機を設置可能な試験水槽は極めて少ないと考えられる。なお、風速はフルード則により近似することが多いが、翼性能の観点で広く用いられるレイノルズ則とは両立できないため、水槽試験ではスラスト荷重やタワー・浮体水面上に働く風荷重を相似させることを優先することがほとんどである。

図1 風車の発電容量とロータ直径の推移
図1 風車の発電容量とロータ直径の推移 5)
表1 大型風車の寸法・質量と模型縮尺の関係
  Actual model 6)
Turbine Rotor diameter (m) Hub height (m) RNA mass (t) Tower mass (t)
DTU 10MW 178.3 119 674 628
IEA 15MW 240 150 1446 1211
  Scale mode (1/100)
Turbine Rotor diameter (m) Hub height (m) RNA mass (kg) Tower mass (kg)
DTU 10MW 1.78 1.19 0.67 0.63
IEA 15MW 2.40 1.50 1.45 1.21
  Scale mode (1/50)
Turbine Rotor diameter (m) Hub height (m) RNA mass (kg) Tower mass (kg)
DTU 10MW 3.57 2.38 5.39 5.02
IEA 15MW 4.80 3.00 11.57 9.69

次回に続く-



参考文献

  1.  経済産業省、洋上風力産業ビジョン(第1次)、2020.
  2.  国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構、グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化プロジェクトに係る公募について、2021.
  3.  公益社団法人 日本船舶海洋工学会:第2 部 日本船舶海洋工学会浮体式洋上風力特別検討委員会 水槽実験技術WG 平成26 年度報告書,浮体式洋上風力特別検討委員会 最終報告書,2015.
  4.  ITTC (International Towing Tank Conference), Recommended Guidelines Model Tests for offshore Wind Turbines, 2014.
  5.  国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構、浮体式洋上風力発電技術ガイドブック、2018.
  6.  COREWIND, COst REduction and increase performance of floating WIND Technology (COREWIND), 2020.


【著者紹介】
中條 俊樹(ちゅうじょう としき)
(国研)海上・港湾・工区技術研究所 海上技術安全研究所
 洋上風力発電プロジェクトチーム チームリーダー
(兼)海洋先端技術系再生エネルギー研究グループ グループ長

■略歴
2008年 独立行政法人 海上技術安全研究所入所
2011年 同 主任研究員
2020年 洋上風力発電プロジェクトチーム チームリーダー
2021年 海洋先端技術系再生エネルギー研究グループ グループ長
海洋構造物、特に浮体式洋上風力発電の波浪中応答評価、安全性評価に従事。