ボールウェーブ、JAXAとの共同研究で超小型高性能ガスクロマトグラフを開発

 ボールウェーブ(株)は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA) 宇宙探査イノベーションハブ(以下、探査ハブ)が実施する「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ※1」において、「多種類の揮発性物質に対する高感度・高精度な可搬型ガスクロマトグラフ※2 の開発」を研究テーマとして、各種ガスや揮発性有機化合物の検出に利用可能な可搬型の高感度・高精度揮発性物質センサの実現と、その宇宙探査における利用及び社会実装を目指す JAXA との共同研究(以下、本研究)に取り組んできた。

 この度、その研究成果として可搬型ガスクロマトグラフのプロトタイプを開発した。JAXA 及びボールウェーブは、この成果を 2021 年 9 月 11 日の応用物理学会秋季学術講演会で発表するとのこと。

 本研究では、当社の革新的な高感度センサ「ボール SAW センサ※3」と「メタル MEMS カラム※4」を活用して、大きさ 100×100×100mm、重さ約 1kg の宇宙探査用途ガスクロマトグラフ(左)を開発した。
 さらにこの成果をもとに、手のひらサイズ(A5 判)の地上用途ガスクロマトグラ フ(右)を開発し、プロトタイプの提供を開始した。

 宇宙探査用途ガスクロマトグラフは、有人宇宙船に搭載し室内環境の常時モニタリングに使用したり、月・火星・小惑星探査においてローバー等に搭載し表土を採取・加熱し発生するガスや大気のその場での定量測定に使用する。本研究の成果は、宇宙資源の利用や生命科学の大幅な進展に貢献することが期待されるという。
 地上用途ガスクロマトグラフは、エネルギー、工業、農林水産、ヘルスケアなど様々な分野における本技術の以下のような社会実装により、安全・安心・クリーンで持続可能な社会の実現が期待される。地上用途ガスクロマトグラフについては、JAXA より「JAXA COSMODE」の使用許諾を得ている。
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●エネルギー/工業分野・・・天然ガス熱量評価のための成分分析、リチウム電池製造・使用中にバインダ・電解液から放出されるガスの成分分析、VOC 分析、異臭検査など
●農林水産分野・・・鮮魚・野菜果物等の生鮮食品や、食用油などの劣化の早期検出によるフードロスの低減、酒・醤油等の香気分析による醸造プロセスモニタリングなど
●ヘルスケア分野・・・居住空間のシックハウスガスや土壌中の汚染物質の検出、各種生体ガス(呼気、体臭、腸内ガス)の分析による病気発見など

※1. 国立研究開発法人科学技術振興機構「イノベーションハブ構築支援事業」に採択、支援を受けており(事業期間:2015年6月1日~2020年3月31日)、本研究はこの事業に基づく共同研究として実施する。
※2. 中空の管をリールに巻いたカラムと呼ばれる流路を混合ガスが通過する際に時間的に分離される現象を利用して、多種類のガスの種類と濃度を測定する分析装置をガスクロマトグラフと呼ぶ。一般的には卓上に設置する大型装置で、可搬型も開発されているが感度や精度の点で大型装置を下回る。
※3.球の表面を伝わる特殊なSAW(Surface Acoustic Wave、弾性表面波。固体表面に集中して伝播する振動のこと)。東北大学の山中名誉教授らによって発見された。
※4.MEMS(micro elecromechanical system)と呼ばれる微細加工技術を用いて作製される平板状の小型カラムの素材を、脆くて割れやすいシリコンから強靭なメタルに変えて東北大学で開発された耐久性の高い微細加工カラム

ニュースリリースサイト(ballwave):http://ballwave.jp/images/20210831.pdf