河川モニタリングに対する社会的ニーズと最新技術・機器(1)

静岡沖電気(株)
技術部
森 孝之

1. はじめに

近年、観測史上最大、数十年に一度、数百年に一度という異常気象が当たり前のように発生するようになっている。以前は大河川の堤防決壊等による水害が多く発生していたが、近年は市街化による地盤の保水力の低下や、局所的な集中豪雨の発生等による内水氾濫、冠水が多発している。
このような状況下では、日本国内のどこでも予想を超えるような水害が発生する危険性があり、これまでの「ハード(土木工事)」の防災対策だけで水害を防止することは経済的にも非常に困難であり、「住民の人命を守る」こと、「財産被害を軽減する」ことを目的とする「減災」観点の対策「河川モニタリング」等の重要性が増してきている。

「減災」において重要なのは、必要な情報を正確に、タイムリーに把握し、周知することによって、より早い対応をとれるようにすることであり、「備える時間」を確保することが必要である。
すなわち「計測」→「情報伝達」→「状況把握」→「判断」→「対応」を確実かつ迅速に行うことが重要となる。
そのため、近年の「河川モニタリング」ではセンサ単体による「計測」だけではなく、「情報伝達」→「状況把握」への適応が求められており、計測されたセンサのデータを、どのような手段で「情報伝達」するかという観点でのインターフェース、通信手段の付加が必須となっている。

最近では国土交通省が整備した「危機管理型水位計」(http://www.river.or.jp/riverwaterlevels/)により、非常に多くの中小規模の河川においても水位の観測が可能となり、これにより得られたデータは河川情報センターが運用するWebサイト「川の水位情報」(https://k.river.go.jp)を通じ広く一般にも公開されており、カメラ画像などとともに状況を把握することが可能となってきている。

2. 河川モニタリングの内容

主要な河川モニタリングの計測項目と内容、弊社で持っている機器等について下表に示す。
※各機器の詳細な特徴、仕様については次項で説明する。

表-1 河川モニタリングの計測項目と内容
表-1 河川モニタリングの計測項目と内容

3. モニタリング技術の紹介

3.1 水位計(接触式と非接触式)

水位計の方式には設置場所で分類すると接触式と非接触式がある。
接触式は水中に設置され、水圧を計測することにより水位を算出するものが主流である。
※水面にフロートを浮かべ、フロートの位置を検出するフロート方式も接触式に該当するが、本報での説明は省略する。
非接触式は、水面上方から超音波や電波を発し、水面からの反射に要する時間を計測し、距離に換算し、水位を算出するものであり、設置環境などにより選択が必要となる。

表-2 水位計の方式
表-2 水位計の方式

3.2 弊社の水位センサ

  • (1) ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)
    本製品は、太陽発電駆動によるエナジーハーベスティング技術の採用により、外部からの給電を不要とし、
    920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop®」とLTEによる無線通信機能を備えた超音波式「水位計である。

    ZE技術は太陽光発電を利用しているが、太陽光発電は天候によって発電量が左右されるため、雨天が続き発電ができず、システム停止となるリスクがある。また充電池の特性として、曇天時の小さい電流では充電効率が下がるという問題もある。ZEではこの問題に対して、小さい電流でも高効率で充電可能なキャパシタと、2次電池の2つを組み合わせることで解決している。
    「図-1 充電構成」に示すように、晴天時は充電電流が高いため直接2次電池に充電し、曇天時の充電電流が小さい時は、一旦キャパシタに充電した後、キャパシタから2次電池に充電することで、電池に対して十分な充電電流を確保し充電効率を高めている。

    図-1 充電構成
    図-1 充電構成

    さらに、低電圧駆動の回路による低消費電力化で、非常に小型の太陽電池パネルと小型のバッテリーの組み合わせでの稼働を可能とし、機器の大幅な小型化を実現した。
    また、通信機能として920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop®」とLTEによる無線通信機能を備えることで、通信線配線も不要となり、ZE技術による商用電源不要化と合わせ配線不要の水位計の製品化を実現した。

    水位計の超音波センサ部分は、河川水位計測で30年以上の運用実績のある超音波式水位計のセンサノウハウを活用しており、必要な計測精度、長期信頼性を実現している。
    超音波による計測原理は上方から放射された超音波の水面での反射波が戻るまでの時間 t(往復)を計測し、この時間 tから次の式で水位を算出する。

    H=D-1/2×C×t

    H:水位(深さもしくは水面の標高)(m)
    D:水位を深さで表現する場合は
    送受波器から水底までの距離(m)
    水位を標高で表現する場合は
    送受波器の標高(m)
    C:空気中の音速(m/sec)※1
    t:送受波器から水面までの超音波の往復時間(sec)

    ※1音速は気温により変動するため、付属している温度検出器で計測した気温により音速補正を行う。

    図-2 超音波による水位計測
    図-2 超音波による水位計測
    図-3 ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)外観
    図-3 ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)外観
    表-3 ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)仕様
    表-3 ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)仕様
  • (2) ゼロエナジー水位計:SLX5177(水圧式)
    本製品は、太陽発電駆動によるエナジーハーベスティング技術の採用により、外部からの給電を不要とし、920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop®」とLTEによる無線通信機能を備えた水圧式水位計である。

    図-4 ゼロエナジー水位計:SLX5177(水圧式)外観
    図-4 ゼロエナジー水位計:SLX5177(水圧式)外観
    表-4 ゼロエナジー水位計:SLX5177(水圧式)仕様
    表-4 ゼロエナジー水位計:SLX5177(水圧式)仕様
  • (3) 超音波式水位計
    常時給電により稼働し、豊富な出力オプションインターフェースを持つ超音波式水位計である。
    ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)と異なり、電源、通信線の配線が必要で、通常は近傍に設置されたテレメーターなどによりデータを送信するため、連続で水位を計測することが可能。

    図-5 ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)外観
    図-5 ゼロエナジー水位計:SLX5172(超音波式)外観
    表-5 超音波水位計仕様
    表-5 超音波水位計仕様
  • (4) 小型Web配信「冠水レーダー」
    電波により反射面までの距離と、電波反射強度計測の機能を持つ電波センサと、Webサーバー機能を持つロガーを組み合わせた装置である。
    市街地、道路、アンダーパスなどの冠水や浸水を検知、計測する装置で、住宅浸水の早期検知や冠水道路への車両の進入の防止等に利用される。

    図-6 小型Web配信「冠水レーダー」の概要
    図-6 小型Web配信「冠水レーダー」の概要
    表-6 小型Web配信「冠水レーダー」電波センサ部仕様
    表-6 小型Web配信「冠水レーダー」電波センサ部仕様
    表-7 小型Web配信「冠水レーダー」データロガー部仕様
    表-7 小型Web配信「冠水レーダー」データロガー部仕様

参考

OKIテクニカルレビューVol235 太陽電池を利用したゼロエナジー水位計 依田、境

OKIテクニカルレビューVol237 ゼロエナジーゲートウェイ~太陽光発電駆動のIoTゲートウェイでインフラ監視の導入を容易化 久保、橋爪、依田

次回に続く-



【著者紹介】
森 孝之(もり たかゆき)
静岡沖電気株式会社 技術部

■略歴
1977年 沼津工業高等専門学校 工業化学科(現 物質工学科)卒業
同年   興国ゴム工業株式会社(現 興国インテック株式会社)
1989年 沖電気工業株式会社
2000年 静岡沖電気株式会社(現職)
2018年~ NPO法人 光ファイバセンシング振興協会 監事