極高真空(XHV)技術とその応用(1)

一般社団法人センサイト協議会
常務理事 島田芳夫

この文章は、センサイト協議会が東京電子株式会社殿にインタビューした内容を記事にしてあります。
面談に応じていただいたのは以下の方々です。

東京電子株式会社
代表取締役社長
黒岩 雅英 殿
東京電子株式会社
シニアマネージャー
岸川 信介 殿


1 はじめに

真空はその度合いによっていくつかの領域に分類される。低真空(大気~102)、中真空(~10-1)、高真空(~10-5)、超高真空(~10-8)(単位はいずれPa)などがある。ここではさらに高度な真空である(10-8~)Paを実現する極高真空(XHV)に関する技術と応用について、この分野で特徴的な技術を有する東京電子(株)の製品を元に説明する。
極高真空の技術はその使用材料から構成要素技術にいたるまで、それ以外の真空機器とは異なっている。極高真空技術の広まりによって、半導体製造及び検査分野から各種超精密分析分野など幅広い用途での活用が期待されている。

2 極高真空用材料 0.2%BeCu

真空構造材と言えば通常ステンレス、あるいはチタンなどが使われているが、熱線(赤外線~可視光)の吸収率が非常に大きくまた熱が伝わりにくいため一旦熱が吸収されると、熱が逃げにくく、チャンバーやフランジなどの温度が上昇、ガス放出が大きくなり極高真空の実現は困難となる。そこで極高真空領域では構造材にベリリウム銅を採用、熱伝導率が高く、高温にならないためガス放出を抑えることに成功している。東京電子では0.2%BeCuを実現、極高真空で課題となっていた水素ガス放出率の低減を実現している。この0.2%BeCuは真空構造材に適するように機械加工、研磨工程、還元・脱ガス工程、バリア膜形成工程を経て製造されている。この素材は極高真空実現には不可欠な材料で、以下で説明される各種極高真空機器に多く使用されるようになっている。(図-1)

図-1 0.2%BeCu製品

3 極高真空向け真空計とポンプ技術

3.1 極高真空計 3B-Gauge

10-8Pa以下(極高真空)の圧力を正確に測定するには、測りたい圧力より一桁以上低い圧力まで測定出来る測定子が必要である。測定限界値付近の誤差としては、測定子の感度変化(軟X線効果)、残留電流変動によって誤差が変動する場合ESDイオンとガス放出などがある。一般的に表示される圧力は実際よりも-10%あるいは-100%低く表示される。極高真空を実現するのは難しいのに、真空度が低めに表示されることは大きなトラブルにつながる恐れがある。この問題を電子回路で補正するには複雑なパラメータの変化を把握し、超微小電流(fA)を測定しなければならず極めて難しい問題と練っている。この問題に対応する最もシンプルな解決方法は残留電流の極めて小さい測定子を用いる事である。
3B―Gaugeはこの問題に答えるべく極高真空向けに開発された技術である。3B(Bent Belt-Beam)―Gaugeは(図2)に示すようにイオンビームを円筒グリッドの外側からベルト状にして取り出し、240°Bent(偏向)した位置で捕捉している。これによって軟X線、ESDイオン、ガス放出による測定限界を改善している。電極は超低ガス放出真空構造材である0.2%BeCu合金のフランジの中に埋め込まれ、低ガス放出化が図られている。
(図-2)

図-2 3BーGauge

3.2 極高真空向けNEGポンプ マジックNEGポンプ

0.2%BeCu合金の真空容器に小型ニップルNEG(Non-Evaporable Getter)カートリッジを円筒状に挿入したポンプで、ケーシングに銅合金を採用しているため輻射熱は殆ど吸収されない。これによって温度上昇を防ぎ、省電力でNEGの活性を可能とした。これをマジック効果と称している。NEG素子はZr/V/Feの3元合金で数10ミクロンの粉末状をバインダーなしで固化・ピル状にし、このピルがガスを吸着する。このポンプはターボ分子ポンプや小型イオンポンプと組み合わされることで、大気圧から10-10Paの極高真空を24時間以内に実現可能としている。
(図-3)

図-3 マジックNEGポンプとカートリッジ

次回に続く-