量子磁気計測センサ応用ME機器の研究開発と実用化(2)

元 横河電機(株) 取締役中央研究所長
大手計測センサ技術事務所
大手 明

2.Appendix:量子磁気計測センサ応用ME機器の実用化の展望(私見)

2.1 脳磁計(MEG)

脳磁計(MEG)は超電導量子干渉素子(SQUID)を用いたものが商品化されたが、液体ヘリウム冷却を必要とし、有用性もあまり確認されていない。新しいMEGは室温で動作し、取扱いが容易で、多くの医療関係の研究者に使用してもらい、診断等に活用してもらうことが必要である。多チャンネルの最高性能の光ポンピング原子磁気センサ[A1]が期待される。

2.2 磁気共鳴イメージング装置(MRI)

本文では0.15Tの小型の常電導磁石で十分な画質と速度の試作品を報告したが、現在実用化されているのは超電導磁石を用いた製品で、装置が大型で設置も大変である。信号検出感度が向上すれば、低磁場でも十分な画質が得られる。光ポンピング原子磁気センサ[A1]、ダイヤモンドNVセンター[A2]、などが提案されている。MRIは既に確立された市場もあり、更に低磁場で小型の製品が開発されれば、世界中に市場が広がる可能性がある。正に新しい産業に育つことになる。企業でも適切な磁場を設定して汎用のMRI装置を開発することは可能である。

2.3 心磁計(MCG)

最近MCGの必要性が報告されている。(筑波大学、日立製作所2019)[A3] 。室温動作のMR素子を用いたMCGも発表されている。2015年:東北大学-コニカミノルタ[A4]、2019年:TDK-東京医科歯科大学大学院)[A5]。これらの中でもMCGの重要性が記載されている。
MCGは日本ではSQUIDを用いたものが2台設置されているに過ぎない(国⽴循環器病研究センター病院、筑波大学附属病院)。検査に使用され、保険適用されているが利用は限られている。
筆者は不整脈で薬による治療を行っているが、薬の変更が必要となり、専門医に相談した。カテーテルアブレーション手術を勧められたが、危険を伴うので、薬の変更で対処してもらっている。不整脈の発生部位と状況を正しく把握できれば、最適な薬の選択や安全な手術が可能になるものと考える。
早急にマルチチャンネル化した高性能磁気センサのMCGを開発し、全国の不整脈専門医に普及させる必要がある。光ポンピング原子磁気センサ[A1]、MR素子[A4] [A5]などの常温動作の機器が候補になる。

参考資料

[A1] 小林哲生:超高感度な光学的磁気センサをコア技術として新たなニューロイメージングへ挑む、京都大学電気関係教室技術情報雑誌CUE, NO.39 MARCH, 3-8, 2018
またはセンサイト6月号「量子磁気センサ」特集 2.医療分野への応用 京都大学 小林哲生先生(発刊予定)

[A2] ダイヤモンド量子磁気センサを用いたデスクトップサイズNMR装置の開発
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 渡邊幸志他 https://unit.aist.go.jp/esprit/image/panel/io2018/04io.pdf

[A3] ニュースリリース不整脈の発生部位を高い精度で特定~心磁図と心臓CT画像の合成技術を用いて~2019年8月1日、国立大学法人 筑波大学、株式会社日立製作所 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2019/08/0801.html

[A4] ニュースリリース 室温で動作する高感度・高分解能の小型心磁計を開発~心疾患の治療・検査が革新的に変わる~
2015年7月23日 東北大学大学院工学研究科、東北大学大学院医学系研究科、コニカミノルタ株式会社、科学技術振興機構 https://www.konicaminolta.com/jp-ja/newsroom/2015/0723_02_01.html

[A5] TDK Developing Technologies 常温で微弱な⽣体磁場を⾼感度センシング 世界初、常温センサによる⼼臓の磁場分布の可視 化に成功 東京医科歯科大学大学院との共同研究(2016年)。
https://product.tdk.com/ja/techlibrary/developing/bio-sensor/index.html



【著者紹介】
大手 明 (おおて あきら)
大手計測センサ技術事務所
(元 横河電機(株) 取締役中央研究所長)

■略歴
1961東京大学工学部応用物理学科卒業(計測工学専修)、横河電機製作所(現横河電機株式会社)入社
工計研究部、研究開発部などにて
1961-76 主としてプロセス制御用計測器及び温度計測関係の研究開発に従事
差動容量式変位変換器/磁気式変位伝送器/アナログ式プロセス制御システム(I-Series)/トランジスタ温度センサ/NQR(四重極共鳴)標準温度計
1976- 研究開発部 室長・部長として研究開発の企画推進
超音波診断装置/NMRイメージング装置(MRI)/コヒーレント光通信用計測技術/高速電子計測技術
1990 電子デバイス本部長、計測制御機器用センサ及びICの開発、設計、生産を担当
1996 取締役中央研究所長、
1998 同社顧問兼横河総合研究所副社長
2003 横河電機技術開発本部技術コンサルタント。
現在 株式会社イーエス技研 監査役、技術顧問
  (大手計測センサ技術事務所)
(次世代センサ協議会元理事、海洋計測センサ部会元代表)

■受賞等
工学博士(1980年東京大学)、IEEE Life Fellow、計測自動制御学会フェロー
1975年 科学技術庁 第1回研究功績者表彰 「NQR標準温度計」