新型コロナウイルス患者のバイタルサインを遠隔地でモニタリングするシステムを構築

順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学の葛西隆敏 准教授、保健医療学部 デジタルヘルス遠隔医療研究開発講座の鍵山暢之 准教授ら、および日本光電工業(株) 荻野記念研究所の松沢航らの共同研究グループは「新型コロナウイルス患者が自身で測定したバイタルサインを遠隔でモニタリングするシステム」を構築し、同システムによる測定値の信頼性が高いことを実証した。
本成果により、新型コロナウイルス感染症の流行下において、医療スタッフが感染リスクの高いバイタルサイン測定を行わずとも患者の測定値を遠隔でモニタリングすることが可能となり、医療スタッフの負担軽減や安全性の確保に繋がる。
研究論文はJournal of Telemedicine and Telecare誌のオンライン版で公開された。

背景
新型コロナウイルス感染症の流行下、従来、患者のバイタルサインは医療スタッフが患者の部屋を訪問して測定していたが、患者自身がバイタルサインを測定し、それを医療スタッフが遠隔でモニタリングするシステムを高い信頼性をもって運用することが可能になれば、医療スタッフと患者の直接的な接触を減らし、医療スタッフの負担軽減と感染リスクの低減につながると考えられる。しかしながら、患者は訓練された医療スタッフではないため、血圧計、パルスオキシメータ、体温計などを使って測定するバイタルサインの信頼性に課題がある。そこで本研究では、それらの値が診療に用うる信頼性があるかどうか検証したという。

内容
本研究では、まず新型コロナウイルス患者のバイタルサイン測定値を遠隔でモニタリングするシステムを構築した(画像)。そして、新型コロナウイルス感染が確定、または疑われて入院した患者が、体重・体温・動脈血酸素飽和度(SpO2)・血圧・脈拍・心拍を自分で測定した。同時に医療スタッフも測定を行い、それらのバイタルサインの測定データと、ベッドの下に配置されたマットタイプのセンサを使用して呼吸数を測定し自動的にクラウドにアップロードした。これらの測定値が医療者による測定とどの程度一致しているのかを検証した。
2020年5月26日から9月23日までの間に、16人の患者が研究に参加して、その全員が10分間のレクチャーによって使用機器の使い方をマスターすることが可能だった。研究期間中に、3,835回バイタルサインの測定データがクラウドにアップロードされ、患者自身が測定したバイタルサインの値と医療スタッフが測定した値は、すべてのパラメーターでよく一致していた。信頼性の指標となる一致の程度を示す級内相関係数(0.8以上で非常に良い相関と解釈される)は、収縮期血圧で0.92、拡張期血圧で0.86、心拍数で0.89、動脈血酸素飽和度(SpO2)で0.92、体温で0.83、呼吸数で0.90となった(いずれもp値は0.001以下)。
これらの結果は、今回、構築した遠隔モニタリングシステムの測定値は高い信頼があることを示しており、新型コロナウイルス感染症流行下の医療スタッフによるバイタルサイン測定値の代替として有効であることを実証したとのこと。

今後、臨床現場での実運用において感染リスク低減度合や負担の軽減度合を評価する研究を行い、また実際に病院でこのシステムを運用することの課題を洗い出す予定。さらに実臨床のニーズにあったシステムとして改良、開発を続けていくとしている。

ニュースリリースサイト(juntendo):https://www.juntendo.ac.jp/news/20210517-01.html