流量センサの校正(1)

島津システムソリューションズ(株)
岩政 明

1. はじめに

水をはじめとする流体は、我々の生活に欠かせない存在である。流体の計測や制御という点では、素材や加工の進化による流量センサの高精度化と制御の高度化の方向がある。また、地球規模の環境課題への取り組みや環境負荷低減、資源の有効活用といった側面もある。流体を制御して活用することに加え、その量を正確に計測することに対する要求がますます高まっている。
流量だけでなく、長さ、質量、電気量、時間、温度などの様々な物理量の計測に関するトレーサビリティを証明するサービスが存在する。計量法が改正され、日本のトレーサビリティ供給と認定の制度であるJCSS登録制度が創設されて20年以上が経過し、医薬、食品、流通など多くの分野で、JCSS校正を活用した規格認証や品質証明が普及し定着している。
本稿では、パイプによる配管などの円管路内を流れる液体の単位時間あたりの量(流量)を測定し、幅広い分野で利用されている流量センサの校正について説明する。

2. 流量センサと校正

2.1 流量の種類

水などの流体が管路内に連続的に存在すると仮定する。流量は次の式で表わされる。また、流量は体積または質量を時間で割った組み立て単位である。

流量に時間を乗じたり、積分することによって、管路を流れた質量や体積を求めることができる。流量はどこに基準をおくかで、次の2通りの表現ができる。

・瞬時流量:ある断面を単位時間あたりにどれだけ流れたか。
・積算流量:ある時間にどれだけ流れたか。

管路の下流に液体を蓄えるタンクなどの設備が設けられた場合では、設備上流で瞬時流量と時間を管理することにより、下流のタンクに溜まる液体の体積や質量を制御することができる。

2.2 流量センサ

流体の挙動をとらえて検出し、測定値を流量信号に変換して出力する機能をもつものが流量センサである。流量の計測においては、これまで多くの研究やさまざまなアイディアが出されており、多くの種類の流量センサが存在する。
測定原理の点では、流体の運動エネルギーを利用するものと流体にエネルギーを与えて測定するものに分類できる。前者の代表例は、絞り流量計、渦流量計、タービン流量計、容積式流量計で、上流と下流の圧力差や流れに鉛直に設けた棒の下流にできる渦周波数、タービンの回転数、流路に設けたマスの動きによって流量を測定する。後者の代表例は、電磁流量計、コリオリ流量計、超音波流量計、熱式流量計であり、流体に磁場、振動、超音波、熱を加え、起電力や周波数や温度の変化によって流量を測定する。検出された信号は、電流信号(4~20mA)やパルス出力のような規格化された電気信号に変換して出力される。
また、測定原理の違いにより、測定できる流体や流量センサの設置条件に制約が生じる。例えば、絞り流量計、渦流量計、タービン流量計、超音波流量計、電磁流量計では、流れの状態や円管路の断面における流速分布の状態によって、検出される信号は変化する。そのため、一般的には流量センサの上流や下流に設ける直管部の長さ(直管長)を十分に長くして流体の流れを発達した流れ(乱流)にして測定する。
流量センサが十分な性能を発揮するためには測定原理や測定条件に注意を払う必要があり、校正結果にも影響を及ぼす。流量センサの校正において注意すべき事項については5章で述べる。

2.3 流量センサの校正

校正とは、より上位の標準と比較して不確かさを求めることである。すなわち、上位の標準器による標準値と校正対象のセンサの測定値を比較して、その差(偏差)や比率(k-factorや補正係数など)を算出して不確かさを付与することである。
流量センサの校正では、流量センサに流体を流し、標準器による標準値と流量センサの測定値を比較する。校正データの処理は、流量センサによる測定値の平均を求め、標準値との偏差を求め、繰り返し測定の標準不確かさを求める。さらに、流量センサの出力信号の種類に応じ、標準値と測定値の比率で流量センサ固有の値であるk-factorや補正係数を算出することによって校正する。
測定結果の不確かさは、流量センサによる繰り返しの不確かさ、校正に使用した標準器や設備の不確かさ、校正条件や環境条件などを考慮して算出する。実際の校正では、あらかじめ校正手順を厳格に定めており、登録・管理された設備を使用して実施される。品質を確保するためには、定めた設備で、定めた手順通りに校正を実施する必要があり、実運用ではチェックシートや自動化によって確実に作業が進められている。

2.4 トレーサビリティ

トレーサビリティ体系は国家標準(特定標準器)を頂点とした階層構造で、連鎖的に校正されその関係が保たれる。流量センサなどの測定器のトレーサビリティが確保されていることは、その測定器が国家標準まで切れ目がない不確かさが付与された適正な校正の連鎖でつながっていることを表す。校正対象の測定器(一般計測機器)を、国家標準に近い上位側にある測定器によって適切に不確かさを求めて校正する。その上位側の測定器は校正によって国家標準とトレーサビリティがとれていると、対象の測定器は校正によって国家標準とのトレーサビリティが確保される。

図2.4.1 トレーサビリティ体系の例

2.5 JCSS制度

JCSS制度は、計量法第8章で規定されている計量計測トレーサビリティを確保するための制度である。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の認定センター(IAJapan)が認定を行う第三者による認証制度であり、定期的に国際規格ISO/IEC17025「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」に基づく校正設備、技術能力、品質システムなどの審査が行われる。図2.5.1に校正を終えた流量計に対する証明書の例を示す。左上のほうに示す、JCSS認定シンボル付の校正証明書を発行することで、流量計の国家計量標準との計量計測トレーサビリティの証明となる。また、JCSSの標章の左側に示されたILAC MRAは、国際ILAC MRA対応認定事業者として認められ、国際的にも通用することを表す。

図2.5.1 校正証明書の例

次回に続く-



【著者紹介】
岩政 明(いわまさ あきら)
島津システムソリューションズ株式会社・技術部 兼 流量計校正試験所

■略歴
2008年 島津システムソリューションズ株式会社入社。
2011年 流量計校正事業に従事し、現在に至る。