我が国における計量標準とその供給体制(2)

産業技術総合研究所
計量標準総合センター
堂前 篤志

3. 我が国の計量標準

3.1 計量法

日本において、計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保し、もって経済の発展および文化の向上に寄与することを目的として制定された法律が計量法であり、1952年に施行された。1992年の計量法改正では“計量単位のSI化”6)が導入され、非SI単位を段階的に計量単位から削除することにより、原則として1999年9月30日までにSI単位への統一が行われた。

1992年の計量法改正において、“計量単位のSI化”と共に大きな柱とされたのが、先端技術分野や工業生産における高精度計測や品質管理の信頼性確保を目的とした計量法トレーサビリティ制度
(JCSS)の創設である7)。JCSSは計量標準供給制度と校正事業者認定制度(2005年より校正事業者登録制度)から構成される。計量標準供給制度は国家計量標準につながる校正を維持するための仕組みであり、校正事業者登録制度は計量法関係法規およびISO/IEC 17025 (JIS Q 17025、試験所及び校正を行う試験所の能力に関する一般要求事項)の要求事項に適合している校正事業者を登録する制度である。後者は、認定機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)認定センター(IAJapan)が運営を担当している。

3.2 計量法トレーサビリティ制度

計量法トレーサビリティ制度の概要を図2にまとめる。この制度では、NMIJ、電力および電力量の分野の標準を担当する日本電気計器検定所(JEMIC)又は経済産業大臣が指定した指定校正機関が国家計量標準を維持・供給する。そして、校正事業者登録制度にて登録された校正事業者(登録事業者)が維持・管理する二次標準、常用参照標準を介して、切れ目のない校正の連鎖を通して、ユーザーの計測機器による計測の結果が国家計量標準へ関連付けられるようになった。この制度に基づいて行われた校正の結果は、JCSSロゴマーク付きの校正証明書へ記載される。現在、指定校正機関は一般財団法人化学物質評価研究機構(CERI)、一般財団法人日本品質保証機構
(JQA)、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)である。日本以外の各国においても、それぞれの国の内情に則したトレーサビリティ制度が確立されている。

図2 計量法トレーサビリティ制度の概要

3.3 NMIJからの標準供給

NMIJが行っている標準供給に関するサービスは、校正対象ごとに校正方法、校正手順などがマニュアルとして文書化されており、ISO/IEC 17025に基づく品質システムにより運用されている。校正方法は妥当性が確認された世界的に公知な国際規格、および国内規格等に準拠した方法を採用しており、これらの校正方法から得られた結果に問題がないことの確認は、前述の国際比較や各種の妥当性確認によって行っている。NMIJが行っている主要な標準供給に関するサービスは、CIPM MRAに対応することを目的に、ピアレビューを受け、物理的な計測を行う際の基準となる物理標準ではISO/IEC 17025の適合審査を、化学的な計測を行う際の基準として用いられるNMIJの標準物質ではISO 17034(JIS Q 17034、標準物質生産者の能力に関する一般要求事項)の適合審査を、それぞれ受審している。上述の審査の結果、IAJapanより製品評価技術基盤機構認定制度(ASNITE)の認定を取得している。

3.4 今後の計量標準整備

計量標準のトレーサビリティ体系が一旦整備されたとしても、その時点での最新の科学的知見や利用できる最高の技術を用いて常にその高度化に取り組んで行くことは、NMIにとって非常に重要な任務のひとつとなっている。このため、NMIJでは、我が国の科学技術基本計画8)を踏まえて策定された計量標準等の整備計画(知的基盤整備計画)9)にしたがって各種計量標準の整備、校正サービスの拡充、計測技術の高度化を着実に行っている。

第1期の知的基盤整備計画(2001年~2010年)では、欧米並みの計量標準整備を目指して、物理標準および標準物質にてそれぞれ約300種類の整備を達成し、CIPM MRAに必要な基本となる計量標準を欧米と遜色ないレベルに到達させた。第2期の知的基盤整備計画(2011年~2020年)においては、第1期を踏まえ、量の整備に加えて質的強化を図り、さらなる計量・産業ニーズへの対応、JCSS制度の拡充、計量標準の広報普及活動の目標設定、ユーザーのニーズ調査に基づいた整備計画の定期的な見直しを行い、効果的な計量標準整備を実施した。現在策定中の第3期知的基盤整備計画(2021年~2030年(予定))では、計量標準の更なる普及啓発と利用促進を目指して、オールジャパンでの効果的かつ効率的な整備・供給、計量標準・計測の活用シーンの拡大、利用促進・人材育成・連携活動を推進していく。これにより、産業・社会ニーズへの迅速かつ適切な対応、社会課題解決への寄与、産業競争力の強化や安全・安心な社会の実現を目指す。

4. まとめ

我が国における計量標準の整備と供給と題して、国際的な計量標準の枠組み、我が国における計量標準の枠組みおよび今後の計量標準整備について、それぞれ概説した。

少子高齢化の本格化や国際競争での産業競争力の低下など我が国の産業界を取り巻く状況はより厳しいものとなっており、それを反映して当初に想定した種類以外にも標準のニーズが拡がっており、より高精度な標準への期待、校正の簡便化・迅速化などの要求も高まっている。また、市民生活においてはデジタル化の進展に伴う新しい決済方法や消費形態が普及しつつあり、それら商取引の信頼性構築が求められている。NMIJは、これらの産業界からの要請や市民生活の動向を注視し、引き続き計量標準の整備・供給に取り組むとともに、産業界から要請される計測・分析技術の開発、ならびに商取引の信頼性維持に寄与できるよう取り組みを進めていく。

参考文献

6) 今井秀孝, 計量法の計量単位-そのSI化への対応, J. SICE, Vol.33 No.8, pp.670-679, Aug. 1994.
7) 独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター, JCSS20年史 ~未来につなぐ計量トレーサビリティ~, 平成26年7月. https://www.nite.go.jp/data/000050173.pdf
8) 内閣府ウェブページ, 科学技術基本計画及び科学技術・イノベーション基本計画,
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index.html
9) 経済産業省ウェブページ, 知的基盤,
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun/techno_infra/index.html



【著者紹介】
堂前 篤志(どうまえ あつし)
国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)
計量標準総合センター(NMIJ)
計量標準普及センター 計量標準調査室 総括主幹

■略歴
2000年 豊橋技術科学大学 工学部 電気・電子工学課程卒業
2014年 東京都市大学 工学研究科 博士後期課程修了、博士(工学)
2000年 通商産業省 工業技術院 電子技術総合研究所 入所
2001年 産業技術総合研究所 計測標準研究部門、2015年 同所 物理計測標準研究部門を経て、
2020年8月より現職