光ファイバセンサの歴史と最新動向 ―光ファイバセンシング振興協会の活動を含めて-(1)

NPO法人
光ファイバセンシング
振興協会
足立正二

1.はじめに

光ファイバ通信の発展過程では、光ファイバ、発光素子、受光素子の性能向上が重要な役割を果たした。その光ファイバ通信の発展に伴って注目を浴びたのが『光ファイバセンサ』である。光ファイバセンサは、光ファイバ自身がセンサとなり、また、光ファイバ全長にわたってセンシングできる新たな概念のセンサとして大いに注目されてきた。「神経網」として活用される光ファイバセンサは、安全システムに欠かせない広範囲の監視を行うことができるたいへん有望な技術であるため、防災やインフラの健全性維持に関する分野では、今後も引き続き積極的な導入が図られていくものと期待されている。
本稿では、光ファイバセンサ技術のこれまでの歩みを概観するとともに、将来への期待について述べる。また、光ファイバセンサ技術の普及・発展に寄与すべく活動を進めている特定非営利活動法人光ファイバセンシング振興協会の取り組みについても紹介する。

2.光ファイバセンサの歩みと現状1) 2) 3)

光ファイバ通信技術と歩調を合わせて展開されてきた『光ファイバセンサ』は、すでに30 年を超える研究・開発の歴史を有し、光ファイバジャイロ、光ファイバ電流センサ、光ファイバAE センサ、光ファイバ多点型・分布型センサなど、実用域に達した複数の技術を社会に送り出してきた。そして、現在も新たな技術が創成され、その性能や測定対象はバラエティに富んでおり、さらなる社会実装への取り組みが続けられている(図1)。

図1 光ファイバセンサの応用分野

2.1 ポイント型センサ(単点型センサ)

光ファイバの端末部に誘電体多層膜を形成させたBOF(Band-pass filter On Fiber-end)型センサ、磁界の変化で光の偏光面が回転する現象(ファラデー効果)を利用して磁界・電流の計測または磁石の近接を検知するファラデー型センサ、2つの光波の合成による干渉現象を検出する干渉型センサ、サニャック効果による位相差検知から高感度な角速度センサを実現する光ファイバジャイロ、光の偏波変動を計測する偏光型センサ、光ファイバの曲げや断線による光伝送損失の増加を検知する透過/遮断型センサ、ドップラー効果を利用して微小弾性波(AE(Acoustic Emission))を計測する光ファイバAEセンサなど、用途にしたがって数多くのポイント型光ファイバセンサが実用化されている。さらに、近年では各種化学量(ガス、pH、CO2濃度、腐食など)が計測できる光ファイバ化学センサも出現している。

2.2 準分布型光ファイバセンサ(多点型センサ)

多点型センサの代表例であるファイバブラググレーティング(FBG;Fiber Bragg Grating)は、光ファイバに形成された回折格子の反射光を利用して各種物理量をセンシングする。製法が確立され、また、コストや性能の優位性により1990年代後半あたりから様々なセンサの開発が取り組まれた。FBG部に応力が加わる機構を付加して、圧力や振動を計測できる。また、温度、構造物のひずみ、変位、水位、流速などのセンシングにも用いられている。1本の光ファイバに反射波長の異なる複数のFBGを配置することで、多点センシングが可能となる。

2.3 分布型光ファイバセンサ4)

 

1976年に考案されたOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)は、もともと通信線路としての光ファイバを監視する技術であったが、その後、光ファイバ中の物理現象(散乱現象)を巧みに利用することで、温度分布測定、ひずみ分布測定、振動分布測定など多くのアプリケーションに適用されている。
1984年にラマン散乱の強度が温度情報を与えることを活用して、OTDR 技術による分布型温度センサが提案された。以来、種々の技術開発が進み、ROTDR(Raman OTDR)やDTS(Distributed Temperature Sensor)等の名称でオイル・ガス分野や産業プラントを中心に実用に供されている。
1989年には、ブリルアン散乱の光周波数シフトから温度あるいは伸縮ひずみが測定できることが示され、OTDR 技術による分布型ひずみ(あるいは温度)センシングが実証された。本技術は1992年に商用機器が市販されている。この方法では、空間分解能(距離分解能)は約1m が限界であり、測定時間も数分を必要としていた。その後、空間分解能制限を打破するいくつかの新たな技術が提案されており、パルス形状の工夫などによって数cm ~数十cm の空間分解能を得ている。1998年には、連続光波の相関特性を合成する新たな技術により、ブリルアン散乱スペクトルの光ファイバに沿う分布を高空間分解能かつ高速でセンシングできるブリルアン光相関領域解析法(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis:BOCDA)が提案され、タイムドメイン技術の弱点(空間分解能と測定感度がトレードオフであること)の克服に成功している。BOCDA は光ファイバの両端から光を導入する技術であるが、片端から導入した光で分布測定を実現するBOCDR(Brillouin Optical Correlation Domain Reflectometer)が2008年に提案されており、実用化に向けた検討が進んでいる。
レイリー散乱を利用する分布型センサでは、1990年代より光周波数領域で位置分解するOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometer)の研究・実用化が進められてきたが、2007年に時間領域で光周波数操作する方式のひずみおよび温度分布センシング技術が確立された。後者は、コヒーレンスの高い光源を用いると、レイリー散乱光間の干渉によるOTDR 波形の振幅揺らぎが顕著に現れることを積極的に利用したもので、超高感度な分布型温度およびひずみセンシングが可能となった。CO2貯蔵時の地層変形監視等の微小な変位計側に適用されている。また、レイリー散乱光はひずみや温度に対して強度のみでなく位相も変化する。位相変化を高速に測定することで、超高感度・高速な分布型ひずみセンサが実用化されている。このセンシング技術は「分布型音響センシング」(DAS:Distributed Acoustic Sensing)と呼ばれ、ガス井の監視やパイプラインのセキュリティ等へ適用が進んでいる。感度やFading noise、空間分解能、システム雑音等の課題も多く、現在、最もホットな研究テーマでもある。

2.4 センシング用光ファイバケーブル5)

 

センサとしての光ファイバは主に通信用途向けのものが利用されるが、光ファイバセンサのアプリケーションの広がりにつれてセンシング用光ファイバケーブルも進展してきた。施工方法や設置場所、設置環境によっては通信用途向けのままでは使用できないことも多く、センシング用途に最適化する設計が行われている。
光ファイバによるセンシングには、高温、高圧、高腐食性といった環境でも機能するという大きな特長があるため、光ファイバを埋め込んだケーブルは、そのような過酷な環境に耐えられるものでなくてはならない。また、屋外の現場やプラントでの光ファイバの敷設のためには、短尺の光ファイバを多数回接続することもしばしば要求される。さらに、油井・ガス井の様な高温・高圧下で硫化水素性ガス雰囲気中にさらされる劣悪環境下で安定的に使用できる光ファイバが求められる。プラント分野では700℃以上の高温測定の機会も多く、さらなる高熱耐性が求められる。近年、これらに対応するいくつかのセンシング用光ファイバケーブルが提案、実証されている。耐熱性に優れるポリイミドをハーメチック被覆することで,耐熱温度が300℃と高く,さらに、水素雰囲気での耐性を増した光ファイバが実現されている。また、高い放射線濃度下での運用が要求される放射性廃棄物地層処分場で使用できる光ファイバも開発されている。
ひずみ分布センシング用光ファイバケーブルは対象物に確実に接触することを原則に設計される。その例として、①樹脂被覆タイプ(光ファイバ素線をガラス繊維からなるFRP層で被覆し、さらにエンボスをつけたポリエチレンを表面に被覆。敷設施工時に光ファイバが折れ難く、コンクリートへの定着性が向上。また、容易に光ファイバの剥き出し取り出しが可能となっている。)②温度およびひずみ分布同時計測タイプ(ケーブル中心部に2本の光ファイバを内蔵し、また2本のテンションメンバにより引張強度を保持。表面はエンボス加工が施されており、埋め込まれると計測対象物や構造物と密着して光ファイバとのすべりを防ぐ。)③柔軟な金属管で装甲構造化されたPA(ポリアミド)アウターシースに1本の光ファイバを実装したひずみ検知用光ファイバケーブル④建材一体タイプ(地盤や盛土の補強に使用される樹脂系複合材料の中に、光ファイバを繊維方向に挿入して一体化させたセンサ機能付きジオテキスタイル。)⑤スマートストランド(PC(Prestressed Concrete)鋼より線に光ファイバを組込んだ製品。PC鋼より線の素線の谷間に沿って全長にわたり光ファイバ を組み込み一体化しており、その光ファイバをひずみセンサとして使用することにより、 PC鋼より線全長の張力分布を計測することが可能。)などがあげられる。
今後、光ファイバセンサの導入が進展する上で、アプリケーションに適したセンシング用光ファイバケーブルの開発・実用化がますます重要となる。

次回に続く-

参考文献

1) 保立和夫:“光センシング技術,今日と将来-安全・安心のためのファイバセンサフォトニクス- ,”応用物理学会第40回光波センシング技術研究会 (2007) 49-56.

2) 足立正二:“光ファイバ神経網技術への期待,”応用物理学会フォトニクス分科会フォトニクスニュース 2(1)(2016) 19-21.

3)保立和夫, 村山英晶編:“光ファイバセンサ入門,”光ファイバセンシング振興協会 (2012).

4) Arthur H. Hartog:“An Introduction to Distributed Optical Fibre Sensors,”CRC Press (2018)

5)岸田欣増,山内良昭,西口憲一:“光ファイバ分布型センサの最近の進展と光ファイバケーブルへの新視点:光学, 46(8)(2017) 323-329.



【著者紹介】
足立 正二(あだち しょうじ)
NPO法人光ファイバセンシング振興協会 副理事長・事務局長

■略歴
1981年 信州大学大学院工学研究科電子工学専攻修了.同年安藤電気(株)入社.
光通信用計測機器、光ファイバセンサ、光ファイバレーザ等の研究開発に従事.
2004年 茨城大学大学院理工学研究科博士後期課程 情報・システム科学専攻修了,博士(工学) .
2004年 横河電機(株)へ転籍.光ファイバセンシング技術のプラント計装への適用開発に従事.
2015年 11月より NPO法人光ファイバセンシング振興協会 副理事長・事務局長