ファブリ・ペロー干渉計を用いた極限環境光ファイバセンサ(1)

長野計器(株)
山手 勉
(藤田 圭一、小川 顕)

1.初めに

光ファイバセンサはセンサ部にエレクトロニクスが不要なため、高温動作、耐雷性、耐電磁ノイズ性に優れ、電力供給が不要なためセンサ部は完全防爆である。さらに分布計測が可能であり、1次元~3次元+時間を組み合わせた4D計測や、温度、圧力、振動、スペクトル等の複数の物理量の測定ができる。また、細径、軽量、小型という光ファイバの特性を生かして、厳しい機械的衝撃・振動下での光計測器も実現でき、耐熱性が向上された光学部品と組み合わせることで高温動作も可能である。このような特徴を活かして、高温・高圧等の極限環境下での応用が広がっている[1], [2]
光ファイバセンサの計測形態は、大きく分けてExtrinsic 型とIntrinsic型に分けられる[3]
Extrinsic型は計測部と変換機の信号を中継する手段として光ファイバを用いている。ファブリ・ペロー干渉計は主にExtrinsic型のポイントセンサに用いられている。Intrinsic型は光ファイバ自身を計測部とするタイプで連続分布計測や準連続分布計測(マルチポイントセンサ)が可能である。ファブリ・ペロー干渉計は、鋭いスペクトルピークを利用した高感度加速度センサに応用されている。

表1 光ファイバセンサの計測形態と概略図

ここでは、ファブリ・ペロー干渉計を用いたセンシングシステムを解説した後、極限環境計測への光ファイバセンサへの応用として高温高圧圧力温度センサ(Extrinsic型)と高感度加速度センサ(Intrinsic型)を紹介する。

2.ファブリ・ペロー干渉計を用いたセンシングシステム

ファブリ・ペロー干渉計は1899年にフランスの物理学者のシャルル・ファブリとアルフレッド・ペローにより発表された[4]。ファブリ ペロー干渉計は,微小化が容易であり, MEMS 技術との相性も良いことから、Extrinsic型の光ファイバセンサ(圧力・温度・歪・加速度等)や小型分光デバイスとして応用されている。特に圧力センサへの応用ではセンササイズや圧力レンジの設計自由度が高いので、最適な方法である[5]

ファブリ・ペロー干渉計は、2枚のミラーを向かい合わせた構造となっている(図1)。手前側の反射面で反射された光と、奥の反射面で反射された光が重ね合わされると、その光路長差によって生じる位相差により干渉が生じる。干渉によって得られる反射光の強度は二つの反射面間の光路長D(=距離d×屈折率n)に応じて以下の式で表される[6]

図1 ファブリ・ペロー干渉計を用いた測定の模式図。分光器で得られる干渉波形から、
センサヘッドのミラー間の距離を測定できる。
(反射率が10%程度までの場合の近似)

λは光の波長である。

ここで、測定対象の物理量によって屈折率nまたは距離dが変化する構造を作ると、反射光強度が式(1)に従って変化するので、ファブリ・ペロー干渉計をセンサとして使用することができる。

しかしながら、干渉を用いたセンサは一般的に、反射光強度が位相2π毎に周期的に同じ値を取ってしまうという欠点がある。このため変位量の大きい測定や、圧力等の絶対値測定に適用するには工夫が必要である。

対策の一つとして、白色干渉(低コヒーレンス干渉)が用いられている[7]。これは、特定の(狭帯域な)波長の光を用いる通常の干渉計と異なり、広帯域な(白色)光を用いて測定を行う方式である。一般に、干渉計の光路長差が大きくなると干渉が生じ難くなるが、その限界の目安となる距離をコヒーレンス長(可干渉長)という。狭帯域な光であるほどコヒーレンス長は長くなり、レーザー光はその代表的な例である。コヒーレンス長Lと線幅(波長帯域) Δλ、中心波長λの関係を式(2)に示す[8]

これを逆手に取って、コヒーレンス長が短い広帯域な白色光を用いることで、干渉が生じる領域を制限し、絶対値を知ることができる。

白色干渉の出力を読み取る方法として、(1)波長領域で読み取る方法と、(2)距離の領域で読み取る方法がある。

(1)波長領域
分光器や波長可変光源等を用いて干渉光のスペクトルを読み取る。これは、式(1)の反射光強度を特定の波長λではなく、広い波長帯に亘ってスペクトルとして測定することに相当する。これにより、式(1)の三角関数に含まれるパラメータとしてDを推定することが可能となる。この方式で得られる波形の例を図2に示す。

図2 波長領域の測定で得られる白色干渉波形(橙線)の例。三角関数状の波形となる。狭線幅なレーザーで測定した場合、図中の青線のようにある1波長のみの強度しかわからないため、キャビティ長の絶対値を知ることができない。

(2)距離領域
光路長差を掃引できる干渉計を測定系に用いる(図3)[9]。この場合、測定用の干渉計とセンサの干渉計の光路長が一致する周辺で干渉が生じる。この方式にコヒーレンス長が長いレーザー光を用いると、レーザーの波長の周期に一致する干渉が広い範囲に亘って生じてしまう。白色干渉ではコヒーレンス長が短いため、センサの光路長差の差が小さい領域でのみ干渉が生じ、その最大となる点を干渉計の光路長差として特定することができる(図3)。

図3 距離領域の測定(上図)で得られる白色干渉波形(図中橙線、中心波長λ=600nm,線幅Δλ=300nm)とレーザーによる干渉波形(図中青線、λ=600nm,Δλ=0.3nm)の例。白色干渉では、測定用の干渉計の光路長差dとセンサの干渉計の光路長差d’が小さい領域の周辺(この例では20um)でのみ干渉が生じ、絶対値が推定できる。

(1)波長領域と(2)距離領域での測定結果は相互に変換可能であり、アプリケーションに応じて素子のコストや信号処理の容易さ等によって適した方式を選択する。
白色干渉は本稿で解説するファブリ・ペロー干渉計以外の干渉を用いた測定にも広く適用されており、代表的な応用には医療分野の光干渉断層撮影(OCT)[10]や3次元測定器[9]などがある。
次章では、このファブリ・ペロー干渉計を用いた極限環境センシングへの適用事例を紹介する。

次回に続く-

参考文献

1)”耐環境光計測技術”、第59回光波センシング技術研究会講演論文集 (応用物理学会・光波センシング技術研究会、2017)

2)Yamate, Tsutomu, Go Fujisawa, and Toru Ikegami. “Optical sensors for the exploration of oil and gas.” Journal of Lightwave Technology 35, no. 16 (2017): 3538-3545.

3)光ファイバセンサ入門 (光防災センシング振興協会, 2012)

4)Perot, A; Fabry, C (1899). “On the Application of Interference Phenomena to the Solution of Various Problems of Spectroscopy and Metrology”. Astrophysical Journal 9.

5)Éric Pinet, “Pressure measurement with fiber-optic sensors: commercial technologies and applications”, Proceedings Volume 7753, 21st International Conference on Optical Fiber Sensors; 775304 (2011)

6)Santos, J. L., A. P. Leite, and David A. Jackson. “Optical fiber sensing with a low-finesse Fabry–Perot cavity.” Applied Optics 31.34 (1992): 7361-7366.

7)Wyant, James C. “White light interferometry.” Holography: A Tribute to Yuri Denisyuk and Emmett Leith. Vol. 4737. International Society for Optics and Photonics, 2002.

8)Born, Max, and Emil Wolf. Principles of optics: electromagnetic theory of propagation, interference and diffraction of light. Elsevier, 2013.

9)Deck, Leslie, and Peter De Groot. “High-speed noncontact profiler based on scanning white-light interferometry.” Applied optics 33.31 (1994): 7334-7338.

10)Huang, David, et al. “Optical coherence tomography.” science 254.5035 (1991): 1178-1181.



【著者紹介】
山手 勉(やまて つとむ)
長野計器株式会社 フェロー

■略歴
1984年 シュルンベルジェ株式会社入社
     石油・ガス探査装置の開発に従事

2017年 長野計器株式会社入社、現在に至る
     極限環境計測センサ開発を主導
     光ファイバセンシング振興協会理事
     応用物理学会光波センシング技術研究会常任幹事