差圧伝送器(1)

島津システムソリューションズ(株)
製造本部技術部
緑川 淳

1.はじめに

工業用プロセス計測器の一つである差圧伝送器について、原理と使用例について紹介する。
差圧伝送器は、2つの圧力を受けてその差(差圧)を空気圧信号、あるいは電気信号に変換し、受信器(指示計や制御装置など)へ伝送する計器である。空気式差圧伝送器であれば20~100kPaの空気圧信号に変換し、電子式差圧伝送器であれば4~20mAの直流信号に変換する(それぞれ計装の統一信号であり、現場から中央までの遠距離を伝送することができる)。後の使用例でも示すように、差圧から流量や液体のレベルを求めることができるため、各種プラントや工場で流量計あるいはレベル計として差圧伝送器が使用される。
差圧を求める場合、2つの圧力をそれぞれ別の圧力計で測定して電気信号(デジタル信号)に変換し、引き算することも考えられる。ところが、この方法では2台の圧力計の器差や引き算での桁落ちがあるため、精度が非常に悪くなってしまう。差圧伝送器は、直接差圧を求めることができるため、高い精度で計測することが可能である。
差圧伝送器は、他の工業計器と同様に、過酷な使用環境下で長期にわたって安定して測定できることが求められる。安定した操業、生産効率の向上、品質の安定化、安全運転、省エネルギーなどを目的としたプラントの制御になくてはならない工業計器の一つである。

2.差圧伝送器の変遷

差圧伝送器は1900年代中頃に空気式が実用化され、その後、電子式が登場し、今に至っている。当社においても以下のように製品が移り変わっている。

1950年代:空気式差圧伝送器(力平衡式)の販売を開始し、化学・紙パルプ等のプラントに採用される。
1960年代:空気式差圧伝送器(力平衡式)で液封素子を利用して各業界で好評を得る。
      電子式差圧伝送器(力平衡式)の販売を開始する。
1970年代:空気式差圧伝送器(力平衡式)で小型・軽量ながら性能の優れた製品を開発・販売。
      電子式差圧伝送器(静電容量式)を販売、力平衡式に対し高い精度と信頼性を持つ。
1980年代:電子式差圧伝送器(半導体圧力センサ式)を販売。
1990年代:シリコンチップ上に圧力・温度・静圧センサを搭載した半導体複合センサを採用。
2000年代:電気信号に通信信号を重ね合わせて伝送する方式が主流になる。

3.差圧伝送器の動作原理

差圧の測定原理として、静電容量式、振動子式、ストレインゲージ式などが実用化されている。ここではストレインゲージを用いた半導体複合センサによる電子式差圧伝送器の動作原理を説明する。図1に差圧伝送器全体の概要図を示す。

図1.差圧伝送器の概要図

ダイアフラムとは、圧力に応じて変位を生じる金属膜のことである。高圧側と低圧側の圧力差によってセンタダイアフラムが変位する。それを半導体複合センサで検出し、センサからの信号をマイコン回路で処理し、差圧信号として出力する。図2に受圧部の内部構造を示す。

図2 受圧部の内部構造

外部の気体や液体(プロセス流体)が直接センタダイアフラムに触れる構造であると、ダイアフラムやセンサが汚れたり腐食したりするおそれがある。そのため、外部からの圧力はシールダイアフラムで受け、内部に圧力を伝える構造になっている。
具体的には、差圧を測定するプロセス流体を高圧側、低圧側それぞれのシールダイアフラムに導き、直接圧力を受ける。シールダイアフラムはそれぞれの圧力に従って変位する。シールダイアフラムからセンタダイアフラムまでの経路には封入液が充填されおり、受けた圧力がそのままセンタダイアフラムに伝わる。
バックアッププレート(ダイアフラムの支え)は、過圧保護機構として機能する。圧力差が生じると封入液の移動とともにセンタダイアフラムが変位するが、さらに圧力差が大きくなると、いずれか一方のシールダイアフラムがバックアッププレートに密着する。この状態に至ると、より大きな圧力はセンサに加わらなくなり、センサの破損を防止することができる。
次にこの差圧センサが搭載されている半導体複合センサについて説明する。図3にセンサの構成例を示す。

図3.半導体複合センサの模式図

差圧伝送器に搭載されている半導体複合センサは、同一シリコンチップ上に、差圧センサと補助センサとして温度センサ、静圧センサが配置されており、測定対象である差圧だけでなく、温度および静圧も計測する。差圧センサは、印加された差圧によりシリコンダイアフラム上の歪が最も大きく発生する部分に形成されたゲージ抵抗を利用したものである。このゲージ抵抗でブリッジを構成し、ピエゾ抵抗効果による抵抗値の変化を電圧信号に変換している。
差圧伝送器での信号処理のためのブロック図を図4に示す。

図4.差圧伝送器のブロック図

半導体複合センサ上の差圧センサによる抵抗値の変化、静圧センサ、温度センサによる測定値をアナログ・ディジタル変換器(A/D変換器)によりディジタル変換し、マイコン回路で信号処理する。差圧センサが持つ精度(リニアリティ)、温度特性、静圧特性などの固有データと各センサで測定されたデータを使用して補正演算を行う。この演算処理により、差圧伝送器として優れた精度、温度特性、静圧特性を実現している。出力信号には通信信号を重ね合わせ、専用のコミュニケータによる差圧伝送器の設定データを伝送している。また、出力信号や設定データをディジタル信号で伝送するフィールドバスを用いた伝送器もある。

次回に続く-



【著者紹介】
緑川 淳(みどりかわ じゅん)
島津システムソリューションズ株式会社
製造本部技術部

■略歴
2012年 島津システムソリューションズ株式会社へ入社
同社 技術部にて電気化学を応用した廃水、排ガスの浄化装置の開発業務に従事。
2015年 電磁流量計、伝送器。その他工業用計測器の開発業務に従事し現在に至る。