工業用センサの製品コンセプトと設計の考え方(2)

日本工業大学 特別研究員
大木 眞一

3. 工業用センサに要求される仕様と設計の考え方

工業用センサは、プロセス制御の分野において多くの製品が長期に使用されてきた実績があることから、ユーザ側から図5に示すような様々な要求が出されている。
このような要求のすべてが実現されている訳ではないが、メーカーでは製品仕様として盛り込むための各種の工夫が重ねられてきた。以下、表1にそれぞれの要求を解説する。

図5 工業用センサに要求される主な仕様

4. スマートセンサ

1980年代以降、マイクロプロセッサを搭載することによりセンサを知能化した通称スマートセンサ、またはインテリジェントセンサと言われる製品が進化した。
従来のアナログ式のセンサに対して、補正機能を付加することにより高精度化、初期設定、レンジ変更や調整機能をリモートで操作することが可能、保守・点検および診断機能を搭載することが可能などの特長がある。

5. 最新の機能

工業用センサのまとめとして、主な最新の機能を紹介する。

・マルチセンシング
一つのセンサで、多くのプロセス量を測定出来ることはコスト低減につながる。最近では、流量、密度、温度などの状態量を同時計測出来るセンサがある。このような機能をマルチセンシングという。代表的な製品例を図6に示す。

図6 マルチバリアブル形伝送器をオリフィスと組合せて質量流量計測に適用した事例 (3)
(横河電機製)

・診断機能
 4項で紹介したスマートセンサの技術成果として、最近では診断機能を搭載した製品が増えている。診断機能は①自己診断、②プロセス診断の2種類がある。

① 自己診断
センサの健全性を診断する機能であり、使用時に故障が発生した場合、異常状態のアラーム信号を発生し、検出部、信号変換部のいずれが異常か、また特定の故障カ所(センサエレメント、信号変換部のブロック、出力など)を表示する機能がある。
② プロセス診断
プロセス状態の異常(圧力変動、流量変動、外部振動、センサ部への付着物、腐食が発生など)を検知、アラーム信号を発生する機能である。センサの機種によって診断機能の特長がある。

・無線伝送
最近では、工業用センサの分野でも無線伝送の技術が進んでいる。プラントにおいては特に信頼性が要求されるため、一般の産業のような爆発的な普及はないが、温度、圧力のモニター用などを中心に導入されている。

表1 工業用センサに要求される仕様 (2) (4)
区分 項目 内容
性能 信頼性 (*) プロセス用センサとして、十分信頼性があること。
① 耐久性=要求される使用期間に対して十分性能 を発揮する能力、②保全性=故障が発生しても容易に修復出来る能力、③設計信頼性=シンプルな構造、部品点数が少ないことなどが必要である。
長期安定性 10年レベルの長期間での出力の変動(経年変化)が小さく、安定していること。
再現性
精度
プロセス状態量を安定に計測するために、出力の再現性が重要。また、精度は「測定の不確かさ」として定義され、目的に見合った精度で測定出来ること。
レンジアビリティー レンジアビリティー(精度を保証する測定の最大量と最小量の比)が大きいこと。
耐環境性能 実験室に比べて過酷な環境で使用されるため、下記のような条件で耐久性が要求される。
① 耐候性(温度、湿度、腐食性ガスなど)、②耐機械的振動・衝撃など、③耐ノイズ性(電磁誘導など)
構造 堅牢な構造
頑丈さ
現場設置形のため、過酷な環境条件でも耐久性がある堅牢な構造、頑丈さが要求される。
互換性 同一機種(異なるメーカーの製品)間での互換性があること。
設置 簡易設置 センサの現場設置が容易であること。(設置工事、取付が容易、設置場所の溶接加工が不要など)
操作
保守
取扱い容易性 センサを取り扱う作業者にとって、小形、軽量、かつ保守が容易であること、調整点検が簡単であること、特殊な工具や操作が不要であること。
保守性
定期校正
保守点検が容易であること。また取引用の場合、定期校正が必要となる。
メンテナンスフリー 理想はメンテナンスフリー。実際には、簡単にオンライン・メンテナンス可能であること。
規格 規格
法規制対応
センサの機械的、電気的設計・構造が規格(JIS、IECなど)に対応していること。
また、使用条件に対応した法規制(高圧ガス、サニタリーなど)に準拠して設計、認定されていること。
防爆構造 石油・化学プラントなどでは、プラントのフィールドで使用される機器類は、爆発性雰囲気など危険な作業環境で使用する場合には、安全確保のため防爆対策機器の使用が法的に義務付けられている。
基本的な防爆対策としては、①耐圧防爆構造(機器の内部で爆発が発生しても、外部に爆発が及ばない構造)②本質安全防爆構造(爆発性雰囲気の生成と電気設備が着火源となるのを実質的にゼロとなるような小さな値以下の保持する構造)が代表的である。
標準化 プロセスを制御するために、センサの信号出力を一元的に管理する必要があることから、0-100%の測定レンジを4-20mA電流出力に統一して標準化している。
また、その後アナログ信号からデジタル通信の流れに対応して、通信プロトコルHART、フィールドバスなどの標準化に発展している。
コスト
消費電力
低コスト 機器、設置、およびメンテナンスを含むトータルコストが低いこと。
低消費電力 工場プラント内で、現場設置形として多くのセンサが使用されるため、低消費電力タイプであることが要求される。このため、4-20mADC、2線伝送方式が多い。

(*)工業用センサの信頼性を表す指標として、故障率は図7のような「バスタブ曲線」となる。多数の部品から構成されているセンサは、偶発故障の間隔を取って平均故障間隔MTBF (Mean Time Between Failures) や故障率λ (Failure Rate) が使われる。図7のフラットな部分が偶発故障による期間となり、初期はデバッグの期間、後半は摩耗期間となる。

図7 故障率のバスタブ曲線

参考文献

1) 山崎弘郎 「センサ工学の基礎(第2版)」オーム社 2000年

2) 黒森健一ほか 「産業応用計測技術」コロナ社 2003年

3) 大木眞一 DVD教材「流量計測入門講座」日本工業出版 2017年

4) 福島豊治 「センサ概論とスマートトランスミッタ」安全工学 Vol.25 No.6 (1986)

5) 横河電機(株)HP https://www.yokogawa.co.jp/



【著者紹介】
大木 眞一(おおき しんいち)
・日本工業大学 特別研究員
・日本工業出版 「計測技術」企画委員
・一般社団法人 次世代センサ協議会 技術委員

■略歴
横河電機(株)にて、流量計開発設計・製品企画・流量設備設計などの業務に携わる。

■主な著書
・「渦流量計の創造」 日本工業出版 大木他
・「流量計測入門」 日本工業出版 DVD教材
・「蒸気流量計測」 日本工業出版 DVD教材