東大IoTメディアラボラトリー、IoT通信の実証実験「LPWA本郷テストベッド」の開設

東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻 IoTメディアラボラトリー(以下、IoTメディアラボ)は、IoTの無線通信技術である省電力広域センサネットワークLPWAの実証実験を東京大学の本郷キャンパス工学部2号館内に「LPWA本郷テストベッド」を構築する。LPWA本郷テストベッドを利用した実験・検証に当たっては、横須賀リサーチパーク(YRP) 研究開発推進協会 WSN協議会の協力のもとで実施するとのこと。

近年、各種IoTデバイスからデータを収集する最も有効な通信手段の一つとして、低消費電力かつ長距離無線通信が可能なLPWAの利用が増加している。しかし、LPWAには複数の方式があり、これまで多くのIoT事業者は、複数のLPWAの中からどのLPWAを採用したら良いかを正確に判断したいという要望が少なくなかった。

LPWA本郷テストベッドは、この要望に応えるため、IoT事業者に対し実験を通して、東京都文京区本郷という都市部における個々のLPWAの通信性能(多くのセンサを様々に配置した時の到達距離や通信速度、到達率など)の測定を可能にする。

IoT事業者は、LPWA本郷テストベッドを利用することで、自ら実証実験の環境を構築することなく、低コストかつ短期間に最適なLPWAを選定できるだけでなく、スピーディーな都市部におけるIoT事業のサービス開発につなげることが可能となる。

一般に普及しているWiFi規格は2.4GHzや5GHzの周波数の電波を用いた無線通信であり、データを高速で送れる反面、障害物に弱く通信距離は数十メートルの範囲である。一方、LPWAは障害物に強い900MHz帯の周波数を利用することによって長距離通信が可能で、伝送速度は遅く少量のデータのやりとりに向いた技術と言える。また、LPWAで利用される電波の920MHz帯は免許不要の周波数であり、現在下記のように複数のLPWAの方式が存在し、各々個別にサービスされている。しかし、今後のLPWA利用の増加、センサ数の増加に伴い、同一LPWAはもちろん異なるLPWA間での干渉・混信の発生が想定される。

LPWA本郷テストベッドでは、この問題に対応するため、単一のLPWAはもちろん異種複数のLPWAが同時に利用され、多くのセンサが通信した時にどのような干渉・混信などの現象が発生するかについても検証する。

上記の実験・検証の対象とするLPWA規格としては、LoRaWAN(ローラワン)、Sigfox(シグフォックス)、ELTRES(エルトレス)、ZETA(ゼタ)、IEEE 802.11ah(Wi-Fi Halow)、Wi-SUN(ワイサン)などを想定している。

これまで、YRP研究開発推進協会 WSN協議会は、「横須賀ハイブリッドLPWAテストベッド」を構築し、2018年4月にサービスを開始し、各種LPWAの比較評価を進めてきた。IoTメディアラボは、本協議会と連携し、横須賀の市街地と東京の本郷地域の両地域における実験結果に基づき、検証を進める。

LPWA本郷テストベッドでは、LPWAによるセンサの大量・同時使用による干渉・混信問題の検証に当たっては、TELEC T-245(*1)に規定された各種測定を実施できる設備を用意し、実験参加者が利用できるように整備している。測定機器の一つとして、大型の電波暗箱(*2)を用意し、周辺の電波の影響がない状態で各種測定を行う。電波暗箱による測定は、実際の利用環境における干渉を推定する上で有効であるという。

(*1)TELEC T245: 我が国で無線設備を運用するためには、電波法令の技術基準に適合していることを証明する「技術基準適合証明」が必要です。「技術基準適合証明」は、一般財団法人TELEC(テレコムエンジニアリングセンター)などの登録証明機関により交付されます。920MHz帯の無線設備に対する試験方法・手順については、TELEC T245に詳しく記載されている。

(*2)電波暗箱:シールドボックスとも呼ばれ、外部からの電波ノイズを遮断し、内部の電波の反射がなく、電波を外部に漏洩させないために用いられる実験環境。電波暗箱では、内部を電波吸収体で覆うことによって電波の反射を防ぎ、無響環境を作り出す。電波暗箱を用いることにより、送信周波数偏差、送信アンテナ電力、占有周波数帯幅、隣接チャネル漏洩電力、変調指数、スプリアス発射の強度、副次的に発する電波の強度、信号伝送速度等の精密な測定を行うことが可能になる。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000063297.html