水中における位置の計測(1)

(株)SGKシステム技研
  尾崎 俊二

1.はじめに

四方を海に囲まれた我が国にとって、海洋は水産資源の宝庫であり、エネルギー資源、希少金属資源の宝庫としてのポテンシャルを持っている。陸資源の乏しい我が国で、今後海洋開発は、ますますその重要度を増していくであろう。
海洋での資源等の調査や施設の建設、メンテナンス等において、電磁波がほとんど透過しない海中では、音響が重要な役割を果たす。様々な音響機器の中で、本稿では音響測位について紹介する。

2.音響測位とは

海中で稼働する様々な機器やダイバーの位置を正確に把握すること(測位)は、作業の正確で効率的な遂行の上からも、また安全上からも極めて重要である。海中では、測位に音波が重要な役割を果たす。
測位したい対象物(機器、ダイバー等)に音響送受波器を取付け、そこから発信される音響パルスを、複数の空間配置された受波器で受信して、受信時間や到来方向を測定することにより、対象物の位置を推定する。通常は対象物に質問信号を発し、それに対する対象物からの応答信号を捉えるアクティブな方法をとることが多いが、対象自体が発する音を複数の受波器で捉えて、その方向や位置を推定するというパッシブな方法もある。生物の生態調査等に活用されている。これについては別途触れることにする。
音響測位の方式は、表1に示すように、LBL、SBL、及びSSBL方式に大別される。いずれの場合も、船から質問信号を送信し、基準点や目標物から応答信号を返すことにより測位が実現できる。

表1 音響測位方式の種類

LBL(Long Baseline)方式では、基準点として、海底に複数の音響トランスポンダ(質問信号パルスを受信すると、一定の時間遅延の後に応答信号パルスを返す装置)を置く。船底あるいは舷側に送受波器を取り付け、送波器から質問信号パルスを送信して、複数のトランスポンダの応答信号を受波器で受信する。各トランスポンダからの信号の受信時刻を計測すると、各トランスポンダと受波器との距離が求められる。トランスポンダの配置を予め測定しておく(キャリブレーションと呼ぶ)と、トランスポンダで張られた座標系での船の位置が求められる。トランスポンダ間の距離(Baselineと呼ぶ)が長く、トランスポンダで張られる空間が広いと、広いエリアで高い精度の測位が可能である。
SBL(Short Baseline)方式はLBLとは逆に、測位したい対象に1本のトランスポンダを取付け、船の側に1個の送波器と複数の受波器を配置する。送波器から質問信号パルスを送信し、トランスポンダの応答信号を複数の受波器で受信して、受信時刻を計測する。送波器とトランスポンダ間の距離に比べて、複数の受波器相互の距離(Baseline)が非常に短いことが名前の由来である。受波器をA,B,..とすると、受波器Aと受波器Bとの受信時刻の差が一定となる曲面は、円錐面で近似できる。したがってトランスポンダは複数の円錐面の交線上で、伝搬時間に相当する距離の位置にいると推定される。
SSBL(Super Short Baseline)方式(USBL(Ultra Short Baseline)とも言う)では、受信器に複数の受波器を短い間隔で配置する。トランスポンダからの応答信号の受信時刻を計測するとともに、複数受波器間の位相差計測や複数受波器によるビーム形成等によって、受波器配列に対する到来方向を推定する。
SBL及びSSBLで音響的に得られるのは受波器配列に対する相対位置である。絶対位置を求めるには、GPS等の測地システム、及び船や受波器配列の姿勢を測定するための姿勢センサが必要である。
LBLは高精度が期待できるが、海底基準点となるトランスポンダの位置を事前に正確に求めておく必要がある。SBLとSSBLはそのような事前準備は不要である。次節以降では、装置の設置が容易なSSBL方式に焦点を絞り、その概要を紹介する。

次回に続く-

【著者紹介】
尾崎 俊二(おざき しゅんじ)
株式会社SGKシステム技研

■略歴
1973年3月        京都大学工学部電気工学科卒業
1973年4月~2009年10月 沖電気工業株式会社
2009年10月~現在     株式会社SGKシステム技研

■専門分野
海洋音響、音響信号処理

■所属学会
海洋音響学会、日本音響学会、米国音響学会