長崎県・長崎大学の海洋産業への取組(2)

長崎大学
海洋未来イノベーション機構
森田 孝明

4.洋上風力発電の商用化と促進区域

令和元年4月のいわゆる再エネ海域利用法の成立とも相まって、全国で洋上風力発電の商用化計画が急速に拡大している(図-3)。しかし、法律に海域利用のしくみが定められただけでは、一朝一夕に海洋開発としての洋上風力発電が進んでいくということには残念ながらならない。法に基づき洋上風力の商用化のために30年の長期海域占用が可能となる「促進区域」に指定されるためには、海域の利用に係る地域との合意や、漁業関係者との協調等が大変重要である。長崎においては、実証フィールド指定にさかのぼる地元関係者の継続的な努力が実り、漁業関係者を含む関係者の理解を得て、浮体式洋上風力の商用化を目指した「五島市沖」が、令和元年12月27日、全国第一号の「促進区域」に指定された。

図-3「洋上風力発電の案件形成状況」(クリックで拡大)
出典:発電所環境アセスメント情報サービス(経済産業省HP等から作成)

5.洋上風力と共生する漁業の振興と地域活性化

また、長崎には、洋上風力の促進区域に向けて、国から「すでに一定の準備段階に進んでいる区域」と整理された「西海市江島沖」というエリアがある。潮流発電の実証フィールドでもある同海域周辺は、洋上の風のポテンシャルも有望であることが確認されている。
長崎大学海洋未来イノベーション機構は、西海市からの要請を受け、同市とともに、洋上風力と共生する持続可能な地域開発に寄与することを目指して、令和2年3月30日、協力・連携に関する協定を締結した。今後、同市と機構との共同研究を開始することとしている。
長崎大学は、これまでも、西海市の地域協議会における勉強会や漁業者も交えた勉強会を支援してきた。また、令和元年9月には、日本水産工学会の初の国際会議ICFE2019において、海洋未来イノベーション機構 海洋未来科学推進室長の松下吉樹教授が実行委員長を務め、長崎大学を会場とした4日間の国際学会において中心的役割を果たした。特に4日間の内の1日全てを「海洋再生可能エネルギーと水産工学」をテーマとした公開シンポジウムにあて、洋上風力と漁業との共生というテーマにおいて、長崎大学と国内外の機関とのつながりを強化した。今後の研究に活かしていく。

6.日本財団 長崎海洋アカデミー

日本における洋上風力の商用化計画の拡大を踏まえ、日本財団は、洋上風力発電産業における人材の育成が急務であるとの認識を強く持つに至っている。また、平成30年5月に閣議決定された第3期海洋基本計画においては、海洋開発人材育成を加速させるため「「日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム」への関係者の参加及び取組強化を促進する」ことが決定された。これを受けて、令和元年3月20日、日本財団は、その具体的取組として、長崎大学のキャンパス内に、「日本財団オーシャンイノベーションコンソ―シアム 長崎海洋開発人材育成・フィールドセンター(愛称:「長崎海洋アカデミー(Nagasaki Ocean Academy :NOA エヌ・オー・エー)」)設置の支援を決定した。社会人育成のための機関として、NPO法人長崎海洋産業クラスター形成推進協議会が運営する施設であるが、長崎大学のオープンラボとして、同協議会が入居する形で、すでに常駐人材が配置され、令和2年10月の開講に向けて活動が始まっている。

 
図-4「長崎海洋アカデミー(NOA)の研修室(長崎大学文教キャンバス)」
出典:長崎海洋産業クラスター形成推進協議会

7.「フィールドセンター」と「長崎オープンイノベーション拠点」

洋上風力発電分野の社会人育成とともに、長崎海洋アカデミーの持つ「フィールドセンター(実海域を利用した研究開発の促進拠点)」の機能の充実も重要である。今後、日本財団支援による「長崎海洋アカデミー」と、県による国指定の「実証フィールド」の運営、「長崎大学海洋未来イノベーション機構が掲げる技術クラスター構想」が融合することにより、長崎大学を拠点とした、県内外の自治体や研究機関と連携した研究ネットワークを形成することが可能ではないかと考えている。次世代センサー協議会との連携にも大いに期待している。
長崎大学においては、第4期中期計画に向けた助走として、令和2年度より、研究開発や産学官連携を一元的に所管する「長崎大学研究開発推進機構」と「長崎県産業労働部」が連携した「長崎オープンイノベ―ション拠点」を長崎大学内に設置することとしている。ここでは、県が新たな基幹産業として育成に取り組んでいる3分野(「海洋」、「ロボット・IoT」、「航空機」)に加え、長崎大学が培ってきた「ライフサイエンス・医工連携」を加えた4分野を中心に、産学官連携による研究開発や事業化プロジェクトを生み出す拠点とするとともに、学内の「FFG(福岡フィナンシャルグループ)アントレプレナーシップセンター」とも連携し、金融機関を加えた産学官金連携により、企業の新事業創出はもとより、学生や大学研究者発のスタートアップやベンチャー創出も実現する拠点として発展させていく方針である。今後、さらに、国内外の大学・研究機関とのネットワークを積極的に構築しながら、長崎のフィールドを生かした拠点を形成していきたい。

 

8.おわりに

このたびは、長崎の海洋に関する取組を紹介する機会をいただき感謝申し上げる。西の端の長崎において、海洋再生可能エネルギーのポテンシャルや水産・環境の技術を基礎に、我が国の海洋技術の発展に貢献すべく日々試行錯誤している。
センサイトでつながる研究者の皆様や次世代センサー協議会の皆様はじめ国内外の有意な研究者による長崎をフィールドとした研究や社会実装プロジェクト等、長崎とのネットワークをお考えいただければありがたい。

※本論文内の意見・見解等は、執筆者個人に属し、長崎県及び長崎大学の公式見解を示すものではないことを申し添える。

【著者紹介】
森田 孝明(もりた たかあき)
長崎大学海洋未来イノベーション機構 機構長特別補佐
兼 長崎県産業労働部 参事監(2020年3月まで)
長崎県産業労働部 参事監(大学連携推進担当)(2020年4月~)

■略歴
1985年3月長崎大学経済学部卒業後、三井銀行で融資業務に従事ののち、出身地である長崎にUターンし長崎県庁に入庁。
2013年、産業労働部産業政策課企画監(課長級)の折、「長崎県海洋エネルギー産業拠点形成構想」策定に従事。
2014年から海洋産業創造室長として、内閣官房海洋政策本部からの実証フィールド選定獲得に奔走するとともに、長崎県、長崎大学、長崎総合科学大学及び長崎海洋産業クラスター形成推進協議会の4者による海洋エネルギー関連分野における連携協力に関する協定を締結。海洋・環境産業創造課長を経て、
2017年4月、産業労働部部付の課長となり、4者連携協定に基づき設立された長崎大学海洋未来イノベーション機構の機構長特別補佐を併任。日本財団の長崎海洋開発人材育成フィールドセンター事業の誘致を主導。
2019年4月からは、県産業労働部参事監(次長級)として同業務に従事。長崎県西海市と長崎大学海洋未来イノベーション機構との連携協定締結や共同研究をプロデュースした。長崎県における産学官による海洋エネルギー産業づくりに一貫して従事するとともに、九州地域戦略会議における海洋エネルギー産業化実務者会議の副座長、内閣府総合海洋政策推進事務局による「海洋状況表示システム(海知る)の活用推進のための検討会」委員のほか、 日本船舶海洋工学会海洋教育推進委員会委員及び海洋教育フォーラム長崎地区実行委員長として、若者への海洋の普及啓発にも取り組んでいる。
2020年4月からは、県産業労働部に新設された参事監(大学連携推進担当)として、引き続き、産学官連携による産業づくりに従事している。